検索エンジン依存症 ? | はったブログ

検索エンジン依存症 ?

レポートを学生に課したところ、案の定、コンピュータの検索エンジンを駆使したものが数多く提出された。鉛筆を舐めつつ原稿用紙に埋めた文字数を何度となく数え、不足分を補うのに苦労した自分の若い頃とは違って、カラー図表が入った活字印刷による大部のものがほとんどである。自分らの時代のレポートから比べるとその概観たるや誠に立派なものである。手書きのものは30数名中1名しかいなかった。
しかしながら、ざっと斜め読みをしていく段階で次のことが明らかとなってきた。検索エンジンが拾い上げる情報を鵜呑みにし、すでに論争では決着がついている古い記事を転載したもの、間違った記載をそのままコピー・ペーストしたものが大多数であった。コンピュータネットワークに親しんだ新しい時代の若者に特有の問題点が散見できる。
まず、学生はコンピュータ画面に表示されるものを疑うことを知らないようで、レポートの書き方について、時代に則した指導が不可欠という印象を強くした。もちろん、レポートを返却する際にこれらのことについては言及した。
最近,Googleを検索した知人から、「美国哥伦比亚大学神经生物学家八田武志教授通过解剖、比较正常男性和女性的大脑…」という脳機能の性差に関する自分のことらしい記事が中国大手サイトのsouthcn.comに水着や女性下着の案内と共に掲載されていることを教えられた。自分でGoogleを「八田武志」のキーワードで検索してみると、その記事が中国の他のサイトにも多く転載されていることが判明した。かつて、そろばんと脳機能の研究が珠算連盟などの情報提供から、中国で翻訳されて心算(中国語での暗算)と脳の研究をしている八田武志についての記事が中国のネットワークにあることは知っていたが、ネット販売の画面に八田武志の名前が出ているのには驚かされた。それも一見すると女性水着や下着の側にある記事なので、いかがわしいサイトではないかと心配したが、中国人留学生に読んでもらった結果によれば、大手のしっかりしたサイトであるということであり、記事の内容も特段間違っているわけではない。ただ、八田武志は美国哥伦比亚大学の教授であるという点が間違っているのである。ちなみに、美国哥伦比亚大学はアメリカ・コロンビア大学のことだそうで、私は、在籍はもちろん訪問したこともない。
一昨年に北アメリカの田舎町の大学で行われた性差に関するシンポジウム(経費はゲイの団体から出ていると聞いている)で話した内容に類似しているのでどこかから間違って情報が流れたのかも知れない。しかし、こういった正確ではない記事がサイト間で次々と転載され、多くの人間がそれを疑うことなくコピー・ペーストしていくのはなんとも奇妙な現象である。
このような検索エンジン依存は別な心配事を派生するように思える。巷にはブログが流行し、膨大な数の人間が徒然の思いを書き綴っていたり、あるいは、大学教員の講義録や学生のレポートなどが掲載されているサイトも数多く、検索エンジンに拾い上げられる情報は増大の一途を辿っている。内容の正誤は言うまでもないが、問題はこれらの情報が時間とともに希薄化しないことである。一旦書き込まれた記事は自然消滅することなくネットワークに漂っている。
心理学では、忘却は人間が生きていく上で肝要な適応機能と見なす(かつて行った研究では2年間でたいていの社会的出来事は忘却される)が、別れた人のことがずっと忘れられない、腹立たしい出来事が検索のたびにフラッシュバックされる、一昔前の論争テーマをいつまでも引き合いに出すなど、忘却という適応機能を働かせることができないための新型のパラノイア症候群のようなものを生み出しはしないかと心配である。物忘れする検索エンジンの開発が必要なのではないかと、自らの物忘れの増加を自覚しつつ感じている。そうなれば、物忘れをするようになる自分のような高齢者はコンピュータ時代の最先端を行く人ということになるのだが。