各自配られた実技試験資材の中身を、試験前に確認する時間が設けられていたのは何ともラッキーであった。

材料を見れば今日の出題の見当がつく。

で、配られた材料を見てみると13種の課題候補のなかのなんと1番目のやつであった。
夜中に酩酊状態になりつつ指から血を流し練習した2番目以降の課題は何だったのだろう…。

若干のタメイキ交じりに支給材料を確認しながら頭の中で複線図を描き、電線の剥き寸法と各部の加工方法を思い起こし、材料と工具、ゴミ入れをベストな位置に並べ、時計をストップウォッチモードにして練習のときと同じ場所に置く。

そして試験は始まった。


先ず最初に13問の課題練習をやった上で失敗した箇所を全て問題用紙の余白に書き上げた。

各工程でどのくらい時間が掛かるかは練習の時に目安を付けておいたので、少し時間を掛け丁寧に複線図を描いた。
何せここで間違ったら全てアウトなのである。


ふと見ると右隣のチョイ悪改めイケてるオヤジも、複線図には時間を掛けているみたいであった。


そんな中、材料を手にがちゃがちゃと気ぜわしく工作を始める受験者もいたりするが、そんなヤツのがちゃがちゃに気を取られぬよう焦らぬよう、って実際気が散るなあ、もう。


5分程掛けて複線図を描き、やっと工作を始めたが、一度アタマの中で寸法と工作方法を思い起こしているので、なんだか恐ろしい勢いで作業が進んだことが恐ろしかった。

気がつくと予定よりかなり早く課題は完成していたが、信用できない自分の仕事なのでチェックをしつつ、なんとなく隣のイケてるオヤジを見てみると、まだ完成にはほど遠く、と言うよりは間に合うのかよそれで、という状態だ。

今、2つ持ってきたVVFストリッパーのうちひとつを1万円で買わないかと持ちかけたら、オッサンはきっと即座に買うだろう。

右前の”ダメおやじ”も、最強工具である”パックン”を使っている割に捗々しくなく、これも間に合うかどうか、といった感じである。

ついでに鉛筆を忘れた左隣のダメ兄ちゃんの状況を見てみると、まだまだ先長し、な状況だった。やはり。



いかんいかん、自分の作業チェックしなきゃ。



当たり前だが採点は人間がするので、膨大な数を採点するうちにメンドウになった採点者は、きっと見た目さえ綺麗に仕上げておけばうっかりこちらのミスに気付かぬ、と言う採点ミスをやらかしてくれるだろうと思い、全体の形を整え、端子から上に突き出た余り線をペンチでパチパチ剪定しているその様子は盆栽そのものである。


あと10分を切った時点で、隣のイケてるオヤジはもうコレ多分間に合わないよね~、な状態であって、オッサンに僕の完成品を10万円で譲ってあげようかとも思ったけど、よく考えたら僕が再び同じ試験を受けなくてはならなくなるので10万円の現金収入はあきらめて盆栽に勤しんだ。

というわけで僕の作品はどんどん美しさを増し、ついには実技参考書に載ってる完成写真のようになった。


これと言ってやることが無くなってくると気になるのは隣人達の状況で、あと2分を切った時点でイケてるオヤジは線の圧着を始めたが、これではきっと間に合わない。


右前のダメおやじも、まだ繋いでない線が沢山ある。


左の兄ちゃんに至っては、まだ圧着にすら入っていない。やはりエンピツをオウチに忘れて来た時点でキミは間に合わなかったのである。


そして右隣のイケてるオヤジが

「あーっ!!やってもた!!」

と絶命の声を上げ、道具を放り投げた。
何か大きな間違いをしていたらしい。

試合終了である。



程なくして試験終了の合図があり、同時に受験者は工作物には触れることが出来なくなった。

見ると工作が完成していない受験者が多かった。


僕は自分の非の打ち所の無い作品を見ながら一人悦に入っていたが、ここからが長かった。

試験会場はビルの中、一斉に退出するわけにも行かず数十分待たされてやっと自分が退出できる順番になって立ち上がり、ふと右前の”ダメおやじ”の工作物をみると、

なんでおまえのやつ完成しちゃってるのー、おーい!!

確かに試験終了時にはまだバラバラと繋がっていない線が有った筈なのである。


かくして ”ダメおやじ” はメデタく ”極悪オヤジ” へ大躍進し、 ”イケてるオヤジ” は ”ダメおやじ・ネオ” へと大変身させられてしまったのであった。


さんざ他人を観察していた僕であったが、試験会場のスカイビルを出る頃には

「ま、キホン人の事はどうでもいーやあ、オレはちゃんと出来たし~♪」

などと半分スキップでビルの谷間の人ごみをかわしつつ、いつもの自分だけよしよしマインドを取り戻しかけた時、ふと一番大事な圧着端子のマークをチェックし忘れていた事に気が付いた。


これがヒトツでも間違っていたら、一発アウトなのである。 あ~あ~。



練習で使った資材。




練習とは良く考えたら電線を10時間以上に渡ってただひたすら細かく切り刻み、剥いたという行為だったのである。



連接枠3枚がダメになった。



こんな機会ではあるがせっかく都会へ出向いたので、帰りがけに半分ほど抜けてしまったバイオリンの弓の毛換えをしてもらった。



これで試験に落ちても調子の良くなった弓は残る。

泣きたくなったらバイオリンと泣くことにしよう。