温泉の駐車場にはGさんの顔見知りが県外から集って来ていて
「おーい、久しぶり!」
「おうおう、」
などと、高らか賑やかに挨拶を交わしてから風呂へむかう。

脱衣場では年配のおっちゃんが二人話していた。

爺A: 「あかんワ、ワシこの前スズメバチぃ刺されてもうてな~、二匹やっつけた思たらまだ他のんおって、そいツにやられてもうた」

爺B: 「ほな、アレちゃうか、もう占領間近やったんやろ。アイツらそん時だけはごっつう刺して来よる」
(スズメバチは、ミツバチの殺戮を続け、巣が陥落する頃になると人間に対しても凶暴化するらしい)

この辺りは昔から養蜂が盛んな地域で、僕らが行く山奥の川辺にも大木の胴をくりぬいた蜂箱が置かれているのを良く見かける。

話をしている一人(爺B)は、それが本職なのか相当な数の巣箱を管理している様だ。
という訳で、僕はパンツを半分ずらしたまま、彼らの脱衣場世間話に聴き入っていたのであった。


風呂上りに再び駐車場の面々の所へ。

彼らは退職後に好きなことをやって過ごしている楽しい仲間たち、という感じで、落ち鮎釣りに来ているようだった。
皆、申し合わせたように車の車種や大きさなどはまちまちだが、快適に車中泊が出来るように改造してあった。





・一人が、今回の漁の成果を見せてくれた。
「そんなん小さいわ」 と川漁にもにも詳しいGさんは愛想もなく言った。
暖かくなったら、川のことも教わりたいな。




その晩はGさんのお宅で、手際よく作られた晩御飯を頂いた。
和食料理人として修行してきたGさんの作る料理は、べつたん変わったメニューではないのにどれも不思議なぐらい美味しく、味にこだわりのない僕にさえ、素材を知りつくした調理が施されているのがわかった。

料理人時代の話や、この野趣濃密な水郷の地において、山川に分け入りその恵みを享受する話を聴きつつ、手作りおかずと土鍋で炊かれたご飯を頂くのはなんとも感慨深かった。

どうやら僕は、自然に詳しい人、その知識が生きて実践出来ている人、生きる過程の多くが自分の中にある人をとても尊敬する傾向にあるようだ。

Gさんの普段の居場所であろう座椅子に座らせていただきながらの晩御飯だったが、その傍らにはサンダーや充電インパクトと言った電動工具と共に鹿の角などが置いてあり、聞けば知り合いから依頼され、猟で使うナイフの加工をしているとのことだった。

テレビの前には他の工作道具や材料の載ったちゃぶ台が有り、座椅子があり、居間の一番快適な場所で(少々周りを汚しても)手作業をするというその状景が、ウチのそれと全く同じなのがなんだか可笑し嬉しかった。

翌朝暗いうちに出発するというので、早い時間ではあったが寝床である車に行った。

山で足手まといにだけはなりたくない、という思いから、思いつく限りの想定をし準備してから寝た。


朝、言われた時間よりかなり早く目が覚め、再び装備のチェック。
扉が開いて、

「おーい、入っといでーや、」

の声で僕も家に。


入ると、梅昆布茶を入れてくれていた。
それにはどうやら自分で漬けた梅干の紫蘇の葉が入っており、
それがまた不思議なぐらい美味しくて、僕にはその美味しさの理屈が分からず、

「つまり人が何かにこだわり修行し精進するという事は、すなわち魔法を身に着けることなのだな、」

などと思いつつ飲み干した。

それを見届けたGさんの、

「よーし、行こか」

の合図で僕らは、まだ暗い山へと出発した。