グエン・タン・ズン首相はベトナム経済界の要請を受けて、ベトナム国家銀行(SBV)に金融政策変更を求めました。ズン首相は、先々週のハノイでの国営企業など経済界要人らとの会議後、「現在の(SBVの)金利政策は経済成長を阻害している」との発言をしました。また、ズン首相の発言に合わせて、ベトコムバンク(VCB)のジェネラルディレクター・タン氏は「現在の(SBVの)金利政策はマネーの自然な流れを阻害している」との見方を示しています。つまり、ズン首相は現在の麻痺しているベトナム金利に懸念を表明、SBVに明確な「金利引き上げ」を要求しているわけです。国営企業中心の経済界としては、まずははっきりとSBVに金利引き上げをしてもらって銀行の融資機能などを正常化した後に、市場メカニズムによる金利低下を期待しているのです。
SBVは現在、基準金利を8%としているため、貸付金利は12%、預け入れ金利は10.5%がそれぞれ上限となっています。これは実際の経済状況に合致していません。そのため、企業側は銀行借り入れが難しい状況です(但し、先月、SBVは地方銀行については中長期融資金利については交渉で決定可能としています)。
ベトナムには国営企業が105社あり、こうした国営企業がGDP(国内総生産)の約40%を生み出しています。そして国営企業の多くは電力、運輸、通信、鉱山、金融、食品などの基幹セクター企業でもあります。
ズン首相は、国営企業には「少なくとも売上増加率10%以上達成」を要請するとともに、「(SBVが)現在の金利政策を継続するならば、政府目標成長率6.5%の達成は難しくなる」とも付け加えました。
昨年来、ベトナムの金利は市場性が欠けているという問題が指摘されています。一般にベトナムでは金利以外の証券市場、外為市場、不動産市場ではある程度正常な市場原理(マーケットメカニズム)が働いているといわれています。但し、私見では不動産市場の高止まりについては規制が強いためと思っています。規制の無い不動産市場ならば、当然、不動産価格は2008年から株式市場とともに下落し、ベトナム人の不動産伝説は崩壊していたでしょう。
金利市場が一定の範囲で自由化となれば、国営企業など大手企業の旺盛な資金需要に対処できる反面で、中小企業には金利高騰という痛みも伴うことになります。ベトナムは社会主義国で資本主義国よりも政府がパタナスティックな保護をしすぎるきらいがあります。規制緩和すると当然に痛みを受ける主体もでてくるわけです。しかし、経済発展のためには規制緩和が必要というジレンマです。ベトナムの将来方向はベトナム人に決定してもらいましょう。