世界食料危機のリスクが急増中 | ホーチミン市(旧サイゴン)在住・証券アナリストのタイ株、ベトナム株、日本株ブログ

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ホーチミン市(旧サイゴン)在住の証券アナリスト・竹内浩一が、ベトナムを中心に世界の金融市場を見渡すブログです。

 昨年12月9日、FAO(国際連合食料農業機構)は2008年の世界栄養不足人口(推計)は2007年の9億2300万人から9億6300万人に増加したと報告しました。

 FAOでは食糧在庫率が18%を切ると危険水準としています。現在、農産物輸出国の穀物在庫水準は年間消費量の18~25%。そして、在庫水準は更に低下する傾向をみせています。つまり、現在、穀物在庫率は危険水域スレスレのところにあります。

 昨年7月以降の原油価格下落にもかかわらず、とうもろこし・サトウキビ等のバイオマス(生物体)を利用したバイオ燃料の生産と需要は増加中。食料として以外のこうした需要も食料在庫減少に一役買っているようです。

 本日(26日)のバンコクポスト紙で、タイ最大財閥チャルーン・ポーカパン・グループのCPインタートレード社・スメット社長は「世界人口の増加、食糧の供給不安、食料在庫の低下からみて、近い将来に食糧危機が起こるリスクが高くなっている」と発言しています。簡単に言えば、「需要が増加、供給は減少、在庫水準も逼迫」で価格上昇寸前と言っているわけです。

 それぞれについて簡単に検証してみたいと思います。まずは、需要面。現時点の世界人口は約68億人。国連人口推計(2006年)では2015年に世界人口は73億人、2025年に80億人、2050年には92億人に達すると予想されています。世界人口の増加に並行して食料需要も増加するはず。

 また、生活水準が上がって豊かになれば(例えば中国沿岸部など)、単純に穀物そのものを食品として消費するのではなく、家畜飼料として消費するケースも増えると思われます。例えば、鶏卵1キロを生産するのに必要なとうもろこしは約3キロ。鶏肉では4キロ、豚肉は7キロ、牛肉は11キロが必要とされます。つまり、生活水準が向上すると食生活の高度化から急激に穀物需要は増加するわけです。

 次は、供給面です。農業増産率は1960年~80年代までは約2.3%であり、人口増をほぼ満たす形で推移していましたが、80年代の半ばからは、右下がりになっています。原因は農地面積の停滞。世界では1年間に500~600万ヘクタール(日本の農地面積とほぼ同じ)もの農地が砂漠化しています。そして、近い将来に飛躍的に農地が増加する可能性は低いと考えられます。

 しかし、更にそれ以上に問題なのが「水資源問題」です。現在の農産物価格では同じ1トンの水を使うとすると、農業用水として使うよりも工業用水として用いるほうがずっと生産性が高いのです。したがって、経済学上の競争原理のため、ほとんどの場合、水は農業用水としてよりも工業用水として使われてしまうのです。これを修正するのに一番手っ取り早いのは穀物価格が上昇することでしょう。

 その他にも、世界的な異常気象の問題などもあります。 冒険投資家ジム・ロジャース氏ではないですが、「水資源関連企業」は長期タームで要注目銘柄と思います。 
 
 世界の穀物在庫水準については、以下の農林水産省のウェブサイトをご参照ください。グラフをみると、現在の世界の穀物在庫水準はオイルショック前の1970年頃と似たような水準まで落ち込んでいます。

参考 農林水産省世界の穀物需給及び価格の推移(グラフ)

 CPインタートレード社・スメット社長は同時に「現状では、近い将来に投機資金流入による穀物価格乱高下から非農業国や農民は大きな問題を抱える可能性がある」とも発言しています。また、同氏はこうした危機を乗り越えるために穀物在庫を増加させることを提案しています。

 例えば、ベトナムの年間コメ生産高は3500万トンですが、コメ在庫はたったの20万トンしかありません。また、人口10億人を抱えるインドのコメ在庫もたったの1000万トンしかありません。タイのコメ在庫水準は比較的高くて、年間消費量1000万トンの30%近くとなっています。しかし、同氏は世界的な需給逼迫を見越して、タイ政府は更にコメ在庫を積み上げるべきだとしています。

 日本のコメ在庫は約2ヶ月分といわれています。減価中の膨大な米ドル外貨準備金を利用して、コメ在庫や(穀物価格と高い相関を持つ)レアメタルなどの在庫を増やす政策はどうでしょうか。「米国国債を売却するのは政治上の理由から米国が許さない」という反論が聞こえてきそうです。でも、日本は独立国のはずですよね。また、米国債をすべて売却するという話ではなく、市場を見ながら一部を売却という話なのです・・「え?中国や台湾がそういう政策にでたら追随する!?」・・・でも、その時は既に米ドルは大底付近をつけているかもしれませんね。なんたって、米国は世界最大の食料輸出国で農業国ですから。