カンボジア訪問記(第6回) プノンペン商業銀行を訪問 | ホーチミン市(旧サイゴン)在住・証券アナリストのタイ株、ベトナム株、日本株ブログ

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ホーチミン市(旧サイゴン)在住の証券アナリスト・竹内浩一が、ベトナムを中心に世界の金融市場を見渡すブログです。

 昨年(08年)9月1日、「SBIホールディングス(SBI)」は韓国の「現代スイスグループ」と共同でカンボジアに商業銀行「プノンペン商業銀行(Phnom Penh Commercial Bank Limited, 本社プノンペン)」を設立。弊社は、プノンペン商業銀行の頭取CEOリム・チェイル氏、副CEOのマーク・リー氏を取材してきました。

 プノンペン商業銀行(資本金1500万米ドル)の出資比率は、日本のSBIホールディングスが40%(600万米ドル)、韓国の現代スイスグループが同57%。プノンペン商業銀行の開業式にはSBI・北尾吉孝CEOも出席しました。北尾吉孝CEOは開業式のスピーチで「プノンペン商業銀行を強力にサポートする」と述べたそうです(プノンペン商業銀行頭取リム・チャエイル氏)。また、同時に、カンボジアでの銀行開業に際してSBI・北尾吉孝CEOと現代スイスグループ・キム・グァンジン会長はカンボジア・シハモニ国王より、それぞれ外国人としては最高位の「銀塔産業勲章」授与されたとのこと。

カンボジアに共同設立した商業銀行の開業に関するお知らせ(SBIホールディングス株式会社)

 プノンペン商業銀行マーク・リー(副CEO)氏によると、プノンペン商業銀行は当初は預金運用業務から始めて、不動産関連のプロジェクトファイナンスなどの融資なども行なう計画とのことです。一方、2010年のカンボジア証券取引所設立も強く意識。「株式公開(IPO)予定企業へのコンサルティング業務」や「カンボジアへ進出を図る外国企業を対象にした融資業務」なども計画しているとのこと。但し、同行にとっては予想外(?)のカンボジア不動産バブル崩壊でここしばらくの間はやはり「忍耐の期間」という様子です。

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 右、プノンペン商業銀行頭取リム・チャエイル氏。左、副CEOのマーク・リー氏。プノンペン商業銀行本店正面にて撮影。

 カンボジアは2004年に世界貿易機関(WTO)に加盟以降、アジア地域では中国に次いで高い経済成長を記録。建設ブーム・不動産バブルで2008年前半までの4年間でプノンペンの土地価格は10倍になったといわれています。特に、中国や韓国からの投資が過熱していました。

 例えば、プノンペンで最も高いビルになる予定の42階建て高層ビル「ゴールドタワー42(2010年完成予定)」はディベロッパー、建設会社、プロジェクトマネジャーに韓国企業が揃い踏み。デベロッパーは「ヨンウ(Yonwoo)」、建設会社は「ハンニル(Hanib)」、プロジェクトマネジャーは「デハン」で、全て韓国企業。「ゴールドタワー42」はハイテクノロジーを駆使したオフィス部分と住宅部分・ショッピングセンター部分を持つ複合ツインタワーになる計画です。

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 建設中の42階建て高層ビル「ゴールドタワー42(2010年完成予定)」

(参考)「CAMKO CITY」プロジェクト(第2回掲載)も韓国系資本プロジェクトのひとつだ。  写真はココ

 しかし、昨年(08年)前半で不動産バブルは崩壊。現在、プノンペンの不動産価格は「最盛期の半値で売りに出しても買い手がない状態(PPSEZの韓国担当の営業担当者)」と云われています。

 特に韓国は「本国」も「株安・通貨安」で不況のど真ん中。プノンペンの不動産プロジェクトも「本国」経済の影響を受けてサスペンド(中断)している案件も一部にはあるようです。プノンペン商業銀行にとっては当初の目論見は多少狂ったとは思われますが、逆に不動産プロジェクト等へまだ融資をしていなかったのはラッキーだったのかもしれません。

 頭取CEOリム・チェイル氏は「数ヶ月まで1ドル=1000韓国ウォンだったのだが、韓国ウォンは急落。現在は1ドル=1350韓国ウォン程度(08年12月半ば時点)になっている。来年の予想は出来ないが、厳しい状況と認識している」と仰ってました。しかし、「韓国企業はカンボジア投資を決して諦めたわけではない。韓国企業の経営者は、1ドル=1200韓国ウォンまで(韓国)ウォンが戻したらカンボジアへの投資を再開する、といっている」とも付け加えています。

 弊社の「何故ベトナムではなくカンボジアに銀行を設立したのか」の問いには、同頭取はベトナムは法体系が中国法体系であり銀行設立がなかなか難しい。一方、カンボジアは英米法系であるとともに資源も豊富で将来性がある」との答え。更に、「まだ若いフン・セン首相の下、政治的にも安定しているのは強み」とも。「フン・セン政権」と「韓国企業」のつながりの深さが感じとれました。

 一方、副CEOのマーク・リー氏は「我々はカンボジアをASEAN(アセアン)の試金石とみている。カンボジアでの銀行業務が成功したら、次はラオスや(現在は軍事政権ではあるが)ミャンマーへの進出も長期的には視野に入れている」とも付け加えられました。

 現在、カンボジアへの観光客の約3分の1は韓国人。カンボジア在留韓国人は約3000人(参考、在留日本人は約800人)です。プノンペンの街中にはハングルの看板や韓国レストランが多く目に付きます。

 どんな国でも5年10年と好景気が続けば一時的な不景気は起こります。日本でも昭和40年の証券恐慌、昭和49年のオイルショック、昭和54年の第2次オイルショックなどはそうでした。カンボジアは中国などの他国と同様に現在は最近5年程度の好況の反動がきているところだと思われます。

 但し、他国と違うのは今回の不動産バブル崩壊で悪影響を受けたのは不動産ブームを牽引していた外国企業、特に韓国、中国系企業のみだということ。つまり、製造業では繊維工業が経済の核となっているカンボジア経済のなかでカンボジア企業への不動産バブル崩壊の直接的な影響は皆無。なぜなら、プノンペンの不動産プロジェクトのほぼすべては外国企業によるもので、その資本はカンボジア国外からの融資に頼っていたためです。つまり、カンボジアの国内企業・銀行は不動産バブル崩壊も全くの無傷なのです。

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 建設がサスペンド(中断)した大規模マンション建設現場。場所はプノンペン市方面からカンボジア・日本友好橋を渡った右側にある。

 「カンボジア不動産バブル崩壊」と「韓国ウォン安・株安」で深手を負った韓国企業。一方、いつも「不動産市場」「株式市場」で天井付近で投資をはじめて、底付近で売却するといわれている日本企業。しかし、今回は日本企業はカンボジアへほとんど投資していなかったため被害には遭いませんでした。

 問題は、今後の海外からの直接投資の流れ。中国企業、韓国企業の不動産投資だけではありません。いままで、その"イメージ"のためか・・ほとんどカンボジアへ直接投資(FDI)をしてこなかった日本企業がカンボジアへの(土地・建物または設立予定の株式市場への・・どちらかというと現地の「庶民感覚」から遊離した・・投資ではなく)「現地に根付いた」直接投資(現地工場建設など)をどれだけ行うか、それがカンボジアにとって最重要キーになると思います。昨日のブログで取り上げたタイガーウイング社や本年1月からPPSEZ(プノンペン経済特区)に工場を起工するヤマハ発動機にはその魁(さきがけ)になって欲しいと思っています。

 最後に、08年9月1日に「SBIホールディングス」が40%出資して設立したプノンペン商業銀行ですが、実は一足早く08年5月22日にカンボジアで開業した「日系」の銀行があります。それは「マルハンジャパン銀行」。パーラー経営の「マルハン」の出資比率は85%。次回のカンボジア訪問記(第7回)は「マルハンジャパン銀行」について書かせていただきます。