宇宙(62) 食(9)
今回は、 「五味」につき述べることにする。
1)五味とは
食材や生薬を味や働きによって「辛味(しんみ)・甘味(かんみ)・酸味(さんみ)・苦味(くみ)・鹹味(かんみ)」の5種類に分類したものを「五味」という。 実際にはこの5つの他に「甘味」に属する「淡味(たんみ)」と「酸味」に属する「渋味(じゅうみ)」を合わせて7種類の味がある。 五味は、 味覚として感じる味によって分類されているものと、 それぞれが持つ「働き」によって分類されているものがある。 例えば、 トウガラシやショウガは「辛味」に分類されていて実際に辛く感じるが、 同じ辛味でも、 働きによって辛味に分類されているベニバナや陳皮(ちんぴ: 熟したミカンの皮を干した生薬)は、 食べても辛くない。 このように、 同じ分類の中にも味覚と働き両方の性質を持つもの以外に、 働きはあっても味覚としては味わうことができないものも含まれている。
2)五味の働き
(1)辛味(しんみ)
●味覚と作用
食べて辛いと感じる味。 辛味の食材や生薬には、 身体を温め血行をよくする、 発汗を促進する、 気の巡りをよくする働きがある。 カゼの治療等によく使われる。
●おもな食材と生薬
ネギ、 ショウガ、 カショウ、 トウガラシ、 フェンネル、 八角(はっかく)、 陳皮(ちんぴ)、 ベニバナ、 シナモン、 ヨモギ等
●とりすぎた場合
辛味のものを食べ過ぎると、 汗が出過ぎて陽気が発散し、 心や腎の陽気を奪ってしまう。 そのため心臓の働きが弱まって精神的に不安定になったり、 腎臓の機能低下によるむくみ等が起こったりすると考えられる。 冷やす力が不足してほてりやすい体質の人は、 辛味の食材を食べ過ぎないように注意。
(2)甘味(かんみ)
●味覚と作用
食べて甘いと感じる味。 甘味の食材や生薬には滋養作用があり、 「気」や「血」を補い、 体力を増進するので、 食べると疲れが取れる。 他に潤いを与え、 痛みを和らげる働きもある。 淡味(たんみ)の食材(茯芩(ぶくりょう)、 トウガン、 白キクラゲ、 ハト麦等)にはおもに利水作用を持つものが多く、 むくみの解消等に用いられる。
●おもな食材と生薬
米、 小麦、 トウモロコシ、 大豆、 ジャガイモ、 サツマイモ、 コボチャ、 クリ、 ニンジン、 ユネリ、 ナツメ、 甘草(かんぞう)、 朝鮮人参等
●とりすぎた場合
甘味のとり過ぎは、 胃もたれを起こしやすくなる。 また、 多量摂取を長い間続けていると、 糖尿病の心配も出て来る。
(3)酸味(さんみ)
●味覚と作用
食べて酸っぱいと感じる味。 酸味の食材には慢性の汗、 咳、 下痢、 おりもの、 精液漏れ等を止める働きがある。 また、 津液を作り出す作用もある。 渋味(じゅうみ)の食材(ギンナン、 柿、 ハスの実等)も同じような働きをするが、 酸味と違い津液を作り出す働きはない。
●おもな食材と生薬
レモン、 梅、 ミカン、 ダイダイ、 ブドウ、 黒酢、 トマト、 アンズ、 五味味(ごみし)等
●とりすぎた場合
もともと汗をかきにくい人、 身体に水分等を溜め込みがちな体質の人は食べすぎに注意。
(4)苦味(くみ)
●味覚と作用
食べて苦いと感じる味。 苦味の食材や生薬には、 身体の上のほうにこもった熱を取り除く働きがある。 のぼせやイライラ等を鎮める、 身体の余分な水分を排出する働きがある。 熱邪により高熱が出る熱病の治療によく使われる。
●おもな食材と生薬
ニガウリ、 クワイ、 ゴボウ、 ハスの葉、 ギンナン、 茶、 ヨモギ、 決明子、
杏仁、 菊花等
●とりすぎた場合
食べ過ぎると身体を温める力を弱め、 胃腸を冷やしやすいので注意。
(5)鹹味(かんみ)
●味覚と作用
食べて塩辛いと感じる味。 鹹味の食材や生薬には、 硬くなったしこりのようなものを軟らかく潤す作用、 気持ちや熱等を鎮静化させる作用がある。 解熱作用もあり、 便秘等にもよいとされている。
●おもな食材と生薬
塩、 醤油、 昆布、 イカ、 カニ、 牡蠣、 ナマコ、 クラゲ、 ノリ、 シジミ等
●とりすぎた場合
鹹味の効果が大き過ぎると、 身体に水分がたまってむくんだり、 血圧が上がることがあるので注意。
※「五味は五臓に入る」
中国最古の医学書「黄帝内経(こうていだいけい)」に、 「五味は五臓に入る」と書かれている。 つまり、 辛味は「肺」を、 甘味は「脾」を、 酸味は「肝」を、 苦味は「心」を、 鹹味は「腎」を強くするという意味。 中医学で用いる生薬は、 効能がうまく引き出せるように下処理をして使う。 その際、 肝に効果のある生薬を酢で炒めたり、 腎に効果のある生薬を塩で炒めたりする。 このように下処理をすると、 生薬の効能がよりその「臓」を強くすると考えられているからである。
― - - つづく