FLICKS FREAK -32ページ目

FLICKS FREAK

いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

1月中旬公開ながら単館系(東京ではシネクイント、シネマ・ロサ、キネカ大森)でロングランとなり話題の作品。

 

青春ものながら、主人公が「普通の青春なんて漂白した青春」と言ってのけるように、ここで描かれているのは女子高生がイリーガル・ビジネスで金を稼ぎ田舎から抜け出そうとする「ノワール青春もの」と名付けたい新ジャンル映画。そうした新奇性と主人公2人プラスワンの3人のキャラが立っていることが人気の理由だろう。

 

主人公2人、朴秀美を南沙良、矢口美流紅を出口夏希、そしてプラスワンの巻き込まれ型キャラ岩隈真子を吉田美月喜が演じている。主人公2人は家庭環境が描かれていてより解像度は高いが、岩隈はそれがないのが違い。自分は彼女たちを全く知らなかったので、そのヴィジュアルから坂道シリーズのアイドルが演じていて、そのアイドル人気が作品の評価になっているのかと思っていたのだが、観ている最中からそれが全くの勘違いだということを理解した。観終わってから調べて、彼女たちが普通の俳優であることを知ったのだが、この作品のよさとしてまず挙げられるのが彼女たちの伸び伸びとしながら説得力のある演技だった。

 

映画のよさのもう一つの要素が全編にちりばめられたサブカル要素。朴はラップとSF小説、矢口は映画、岩隈は漫画に一家言あるという設定。同じ要素が人気を博した作品では『花束みたいな恋をした』が挙げられるが、『花束みたいな~』の仕掛け人である坂元裕二は50代後半。昔鳴らしたオジサンが若者をサブカル要素で絡めとろうというあざとさが見えるが、この作品の原作者波木銅は20代半ば。SF小説に古典のハインライン『夏への扉』や自分がまさにどんぴしゃの世代だったウイリアム・ギブスンの『ニューロマンサー』を今日の若者が語るのはうれしくなる。映画要素では、矢口が「このセリフ一遍言ってみたかった~!」という『ファイト・クラブ』のブラピのセリフや、ジョン・カサヴェテスへの理解、ゴダール作品から取ったタイトル、『太陽を盗んだ男』の言及は映画ファンとしてはうれしいところ(現役の頃のジュリーは知らないだろうが)。美流紅の名前がハーヴェイ・ミルクから取られたことは、ハーヴェイ・ミルクの名前は日本では映画ファン以外には知られていないであろうことから、ガス・ヴァン・サント監督の『ミルク』を原作者は観たのだろうと思いながら観ていた。ラップ文化に造詣は深くないが、南沙良のラップは『安楽死特区』の毎熊克哉(←とてもいい俳優だが)よりは相当イケていた(無茶苦茶うまいわけではないが、熱意を感じさせるところがミソ)。

 

作品の構成も実に見事。同じ高校の同級生ながら、本来であればそれほど近づくはずのなかった3人が、交差点でDV夫から子供をかばう女性がはねられるシーンを3方向から同時に見て、田舎に引きこもっているとそれが自分の将来を物語っていると3人同時に悟って一気に近づくところから物語が跳ねるところは絶妙だった(そして、その伏線は火事のシーンで回収)。

 

彼女たちがキャンプよろしく戸外でなごむシーンの背景に東海発電所の原子炉が映りこんでいるシュールさもよかった。

 

主題歌はNIKO NIKO TAN TANの『Stranger』。邦画の場合、主題歌を誰が歌っているかでレコードの「ジャケ買い」(←レコードを「ヴァイナル」と呼ぶ配信中心の今日では死語か)ならぬリトマス紙だが、本作ではパスだろう。

 

そうした魅力が少なくない作品ながら、自分は絶賛とまでは言えなかった。それはクライムものと青春ものの相性の悪さ。イリーガル・ビジネスの結果は、反社や半グレと対峙せざるを得ず、身の危険すらあることは容易に想像できる。この作品では、若干そうした要素を盛り込みながらもかなり甘ちゃんの展開。クライム要素を反映した暴力からくる身体的苦痛・損傷ばりばりでは爽やかな青春ものにはなりえないだろうから仕方ないところなのだろうが。

 

あと、イリーガル・ビジネスに高校生が手を染めるリアリティのなさは話の面白さを優先して「あり」だとして、いつも映画で気になるのが科学的矛盾。ビニールハウス内に引火物を撒けば、足を踏み入れた瞬間に気づくはずだし、あの爆発はガソリンを想定させるが、帰化したガソリンを密閉空間で吸えば、めまい、吐き気そして窒息昏倒までするのが科学的には正しいと思われる。

 

些細な点ではあるが、ドラゴン花火のシーンでは彼女たちの前景と後景を見せているのだが、彼女たちを前から撮るシーンで背後にカメラが映りこんでいたのはCG処理で消すなどの配慮が欲しかった。

 

女子高生青春ものには山下敦弘監督『リンダ リンダ リンダ』や松本壮史監督『サマーフィルムにのって』といった秀作があるが、それに連なる作品の一つだろう。観逃す手はない。

 

★★★★★★ (6/10)

 

『万事快調 オール・グリーンズ』予告編