満蒙開拓移民として岐阜県黒川村から渡った開拓団の女性たちが、敗戦後の引き揚げの過程でソ連軍兵士への性接待を強いられた事実と、その後長く沈黙を強いられてきた被害が、当事者・家族・遺族会の証言を通じて史実として記録されたドキュメンタリー。
近現代の日本史で、知るべきなのに知らないことは少なくないのだろう。アジア太平洋戦争における満州国の歴史もその一つ。満州国は、満州事変により日本軍が占領した地域に建国された傀儡国家であり、その後、ソ連が日ソ中立条約を破棄して満州に侵攻して瓦解し、終戦により滅亡したことは教科書レベルの知識としては知っていた。しかし、終戦時に満州国には155万人の日本人が居留していて、彼らがその後どうなったかは自分の知るところではなかった。
満州国に移住した日本人には様々なケースがあったが、移民のうち国策として農地開拓のために送られた農業移民が「開拓団」。27万人が移住したとされる。
終戦後の引き上げは「死の逃避行」と言えるもので、冬場は気温がマイナス30度以下になる中、食料もなく、薄着で数百~数千キロの徒歩移動を強いられたとされる。頼りとなるはずの関東軍は、民間人を置き去りにして先に撤退し、ソ連兵による略奪、暴行や、かつて土地を追われた現地中国人による報復に遭う中で集団自決も数多く発生したとされる。満州引き上げに伴う18-20万人の死者の数は、アジア太平洋戦争における80万人の民間人の死者のうち、東京大空襲(10万人)、広島原爆(14万人)、長崎原爆(7万人)、沖縄戦(12万人)の死者の数を上回る。そうした極限状況の中で、命を長らえるために取った行動の一つが、ソ連兵の庇護を懇願する見返りとして、若い女性を慰安婦として差し出すというものだった。
この映画で描かれているのは、その被害者の生の声と彼女たちを支援する遺族会の活動。実際にその被害に遭った女性たちが語る姿は何物にも代えがたいほどパワフルなメッセージ性があった。
この作品を観て感じたのは、黒川開拓団の「悲劇」というミクロな出来事を描きながら、そのメッセージはマクロな視点に及ぶということ。そこで我々が読み取るべきは、戦争がいかに非人道的な結果をもたらし、そして犠牲となるのは弱者、特に女性ということ。
この作品を観て心に響いたことの一つは、この黒川開拓団の物語を授業で扱っている学校(佼成学園女子高校)、教師がいるという事実。素晴らしいことである。今日、日本を含む全世界が右傾化し、戦争のリスクが高まる中(改憲が国民の議論のテーブルに乗ることはもはや規定路線だろう)、学校教育で教えるべき一つがアジア太平洋戦争における負の歴史だと感じる。縄文・弥生時代などどうでもよく、それこそ江戸時代以前は素養としての教育であり、実のある社会科教育は明治時代以降の日本と世界の歴史だと感じさせられた。
この作品を観たからには伝えるべきだと思わせる作品。いつかは現・白川町にある乙女の碑を訪れてみたいと思っている。
★★★★★★ (6/10)
