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FLICKS FREAK

いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

河瀨直美監督は高く評価する日本人監督の一人。彼女の主宰するなら国際映画祭に出資をさせてもらったほど。彼女のこれまでの個人的ベストは『あん』であり、2015年マイ・ベスト3の一本に選んだ作品。結論から言うとこの作品は『あん』以上に河瀨直美らしい作品であり、今年のマイ・ベスト3の候補に挙がるであろう作品。


河瀨直美らしさとは何か。初の商業作品『萌の朱雀』(1997)がカンヌ国際映画祭のカメラ・ドール(新人監督賞)に選ばれて以来、彼女が常に海外、特にヨーロッパを意識していることは明らかだろう。その作家性は、海外に開かれた視点と要約できる。それはテーマに国際的に普遍である要素を盛り込み、そこに日本の独自性を色濃く出すことで創出される。「日本の独自性」の表現には、日本らしい自然風景へのこだわりや日本古来の人の衣・食・住に関わるならわしの印象的なシーンが用いられている。ドキュメンタリー作品を撮る監督らしく、フィクション作品であってもドキュメンタリー・タッチの風合いがあることも特徴であろう。視覚的映像へのこだわりとして、ざらついた画像、露出過多、アウトフォーカスの映像の挿入によって、写真集を見ている印象を与えるシーンがあることも特徴と言える。

 

そうした海外に開かれた視点を持つ彼女だからこそ、東京オリンピックの公式記録映画の監督に抜擢されたのだが、東京オリンピック2020に対する批判から、作品の評価には反感すら買ったことは彼女にとっては不運だったかもしれない(自分はいまだに未鑑賞)。1964年東京オリンピックを映像化した市川崑の時代とは異なる、オリンピックという国を挙げての祭典に対する国民感情の複雑さという事情を映し出すことにもなった。

 

この作品は、日本・フランス・ベルギー・ルクセンブルクの4カ国による国際共同制作映画であり、主人公をフランス人小児科医としているところからしてヨーロッパ映画の雰囲気をまとっている。演じるのはポール・トーマス・アンダーソン監督『ファントム・スレッド』(2017)で美しきヒロインを演じたヴィッキー・クリープス(ちなみにダニエル・デイ=ルイスは『ファントム・スレッド』を最後に俳優引退を表明していたが、昨年、息子のローナン・デイ=ルイスの初監督作品『Anemone』に脚本・主演で参加し引退を撤回している)。

 

心臓に難病を抱えた子供に対する心臓移植手術が、この国では困難である実情を題材としている。それは死という人間にとって最重要課題に対する文化的な違いが反映しており、ヨーロッパと日本における死生観が浮き彫りにされていた。

 

そこに添えられているのが、行った者であれば分かるスピリチュアルとさえ言える雰囲気をまとった屋久島の自然風景。その圧倒的な存在感はこの作品の印象に大きく寄与している。日本古来のならわしとしてはそのハレの場景である祭りのシーンが印象的だった。

 

主人公コリーと屋久島で出会い、1年間共に住んだ後に突然失踪するのが寛一郎演じる迅。彼と1年も一緒に生活していたのであれば、彼のことを深く理解していたはずなのに、突然目の前から消えるとその存在でさえ幻だったのかもというコリーの喪失感は彼女が日本人でないからこそ強調されていた。迅がいつも携えていたハッセルブラッドが壊れていたというエピソードも効いていた(屋久島の写真があるので、最初からではなかったのだろうが)。

 

演技で特筆すべきは河瀨組の尾野真千子と永瀬正敏。ドキュメンタリーのようなリアルさには彼らのようなよく知った顔は不利なのだが、自然に溶け込み、彼らの役柄(子供を失った親)を演じ切った演技は観ているこちらの心を揺さぶるものがあった。

 

今年の映画の中では最重要の一本になることは確定している作品。観逃すべからず。

 

★★★★★★★★ (8/10)

 

『たしかにあった幻』予告編