この7月に68歳で逝去した東野圭吾原作の映画化作品。東野圭吾の死因は大腸がんだったが、この作品でもそれがモチーフに使われているのは思うところがあったのだろうか。
『二重生活』(2016)で映画監督デビューをした岸善幸は、これまで全ての作品が水準以上の出来だった。特に『あゝ、荒野』 (2017)と『前科者』 (2022)は邦画史上に残る秀作と言っていい作品。それだけ期待が大きかったこともあるが、この最新作は岸善幸作品としては低調と言わざるを得なかった。
東野圭吾はミステリーでもかなりアクロバティックなトリックを使う印象。この作品もストーリーは東野圭吾節満載の意外性があったが、その原作を映画化することで一杯一杯だったか。岸善幸監督作としては、並のプログラムピクチャ-になっていた。「社会の問題を、登場人物の体温のあるドラマに落とし込む」「社会からこぼれ落ちる人、分断、疎外感をテーマとする」といった彼の作家性は維持されていたものの、商業性に偏って映画としてのよさを失っていたように感じた。削れる部分があり、その代わりもう少し丁寧に描いて欲しい部分があった。しかし最大の難点は、ミステリーの大御所に意見するのはおこがましいが、原作由来にあると思われる。
(以下ネタバレ)
岸善幸監督の作家性であるところの「社会からこぼれ落ちる人」は、この作品においては犯罪者の家族。そしてこの作品のテーマは、犯罪者の家族であるという理由だけで社会から指弾される理不尽さと彼らの苦悩。倉木達郎が白石健介殺害の罪をかぶるのは、33年前の事件の冤罪被害者家族の苦悩の原因が自分にあるという共犯意識からの贖罪のため。その犯罪者とされた者の家族の苦悩を理解するなら、倉木が最も大切にすべき彼の息子和真をその苦悩に陥れる設定は全く納得がいかない。もし倉木に身寄りがいなければ残り少ない命を自分の贖罪として使うということはあり得るが、それだと「被害者の子供+加害者の子供」という主要な設定が成り立たないので、そもそもの設定が破綻しているということになるのだが。
削るべき部分は、被害者の子供と加害者の子供が事件解明を通して恋愛感情を持つという展開。原作未読ゆえにその設定が原作にあったかは知るところではないが、もし原作にあったとしても映画化作品ではばっさり切ってもいい設定だろう。列車の中で二人が手を握るシーンはいかがなものか。美令が自分の父を殺した男の息子である和馬を最初から拒絶しなかったことには、親子であっても罪を犯したのは別の人間という理解があってのことであり、もしそうであれば立場が逆転した後「私には犯罪者の血が流れている」とその時点で和馬を拒絶するのはあまり一貫していないように感じた。
また白石健介殺害の動機が復讐ではなかったという設定にも違和感があった。33年前と現代の二つの殺人の動機に差異をつけて、現代社会の異常性を描きたかったのかもしれないがtoo muchの印象。その真犯人には驚かされ、東野圭吾らしい展開だと思ったが。
倉木がその場にいない白石健介殺害の状況をどうやって知ったかの説明は不足していた。また、倉木が健介と長年を経ての再会が「遺産相続のために弁護士を探していたら偶然見つけたのは本当です」と三浦友和がナレーションで語っていたが、そんな偶然があるのだろうか(見つけたはいいが遺産相続の相談は、その後名古屋の弁護士にした?)。33年前の事件の悔恨をずっと抱えたまま倉木は生きてきたのだが、その後事件関係者の浅羽親子の小料理屋を見つけて出入りするようになり、ある時に過去の事件の真実を告白し、その事実を健介殺害の真犯人が見つけて犯行に及ぶという実に複雑な展開も分かりにくかった。
和馬が、幼い白石健介と老婦人が写った写真の場所が常滑のしかもピンポイントの場所だとどうして分かったか。また、その老婦人がその後どうなったか。老婦人が美令の曽祖父の元妻であり詐欺事件の被害者だと分かっても、33年前の事件が健介の犯行という確証にどうして美令と和馬がたどり着けるのか。それらは物語が大きく転換する場面であり、再現映像を見せられている観客は納得しても、映画の中の彼らの思考には飛躍があると思われた。
公衆電話の周辺には防犯カメラが大概設置されているという五代の言葉に、倉木がとっさにプリペイド携帯の嘘をつくというのもかなりトリッキー。白石健介の携帯はiPhoneであり(Androidでは「公衆電話」と表示される)、プリペイド携帯からの発信には「184」をつけるという前提が必要だが、それ以上に、五代が健介呼び出しの「非通知」通話が殺害現場周辺の公衆電話からなされたと気付くのもハードルが高いように思う。その瞬間の柄本佑のおでこパッチーンは、佑らしい演技だったが。
観終わった後に、岸善幸監督作品らしい感動は残らなかった。東野圭吾原作、松村北斗、今田美桜主演というキャスティングで売れるのだろうが。
★★★★ (4/10)
