『前科者』 (2022) 岸善幸監督 | FLICKS FREAK

FLICKS FREAK

いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

寺山修司原作を映画化した『あゝ、荒野』(2017)が素晴らしかった岸善幸監督。この作品も素晴らしい作品だった。

 

原作は同名マンガ、そして映画版に先立ちドラマ版があることも鑑賞後に知ったが、オリジナルストーリーでもあり鑑賞に全く問題はなかった。

 

保護司になって3年が経つ阿川佳代は、職場のいじめが原因で同僚を刺殺した過去を持つ前科者・工藤誠の担当になる。誠は自動車修理工場で真面目に働き、正社員登用も決まりかけるなど順調に更生への道を歩んでいた。しかし、保護観察終了を目前にした最後の面談の日、誠は突然姿を消す。時を同じくして、警官から拳銃が奪われ、その銃を使った連続殺人事件が発生する。その捜査線上に容疑者として浮上したのが誠だった。佳代の前には、中学時代の同級生であり誠を追う刑事の滝本真司が現れ、誠の行方を巡って対立する。

 

阿川佳代を演じるのが有村架純、工藤誠を演じるのが森田剛。二人の説得力ある演技がこの作品のよさだが、この主人公二人よりもある意味重要なキャラクターが一人いて(それを演じる俳優は誰かも含めて、ネタバレを避けて詳細は避けるが)、その人物と工藤誠の物語がこの作品の主要なテーマ。

 

前半は「連続殺人犯は誰?」というミステリー仕立てであり、DNA型鑑定で被害者の手の爪から誠の組織片が見つかったことから彼が警察から最重要被疑者とされるというストーリーだが、誠が再犯に手を染める雰囲気は微塵もなかったので(それでは物語が成り立たないという予断もある)、ミステリーとしてはかなり弱いと言える。しかし、この作品は先に述べたように誠ともう一人の人物のヒューマン・ドラマが主軸であるがゆえ、ミステリーとしての弱さは作品のよさを削ぐものではなかった。

 

20代女性が保護司という無報酬の役割を担うのは珍しいと思ったが、調べてみると保護司の平均年齢は65歳、そして4割が70代以上で、20代どころか40歳未満は1%にも満たないということを知った。犯罪の抑止には再犯の予防は不可欠であり、処罰を科して終わりという応報的司法ではなく、加害者に健全化の機会を与える修復的司法が効果的であることは知られ始めている。それは前科者個人のためでもあるが、それ以上に重要なことは再犯抑止という社会のためであることである。その修復的司法には保護司の役割は大きいが、誰しも好んでやりたいと思えない役割が無報酬というのは考えさせられた。

 

阿川佳代がなぜ保護司になったかというのも重要なポイント。この作品の中で、中学時代に心を寄せていた真司の父が自分の目の前で通り魔に刺殺されるが(その通り魔を演じているのは『ケンとカズ』で毎熊克哉と共に印象的な演技を見せたカトウシンスケ。端役にもいい役者を使っている)、その通り魔も前科者だったのだろう。そして「真司の父のような被害者を出さないこと」が生かされた意味であり、その命を活かすための彼女の答えが保護司だった。自分も被害者の立場でありながら、中学時代の真司からは(中原中也の詩集に書きなぐられた)心無い言葉をぶつけられながらもそうした選択をするというのはなかなかできることではない。

 

そうしたふんだんに盛り込まれた社会的メッセージを考えながら観ていたのだが、結局のところ森田剛の鼻水にはやられてしまった。阿川佳代、工藤誠ともう一人の背負ったものの重さを考えるとずしっとくるものがあるが、それでも未来に向けて希望を感じさせるいい鑑賞後感だった。

 

★★★★★★★★ (8/10)

 

『前科者』予告編