2025年も残りわずか。今年起こったことを振り返ると、よかったことの一つが「思いがけず」藤井風のライブを見ることができたこと。「思いがけず」というのは、自分が持っていたチケットはビリー・アイリッシュのライブのチケットで、ライブ直前に藤井風がスペシャルゲスト(前座)で演奏することが決まったから。主催者からメールで日曜のライブ開始時間の変更の連絡があったのはライブ4日前の水曜。「スペシャルゲスト出演のため開始時間が30分前倒しになる」という連絡だった。メールを見て、藤井風のファンの一人である自分が狂喜乱舞したことは言うまでもない。そして当日、彼のパフォーマンスは素晴らしかった。観客の興奮も最高潮だと感じた。その1時間のパフォーマンスが終わった後は、「これで帰っても満足なくらい」と思った。しかし、それが大間違いだったことに気付くのはビリーが登場した瞬間だった。やはり地球レベルのスーパースターのオーラは桁違いだった。
このドキュメンタリー作品の前半は、2019年3月リリースとなる彼女のデビューアルバム『When We All Fall Asleep, Where Do We Go?』の制作風景を中心とし、後半は、その年の4月からのコーチェラ・フェスティバルを皮切りにしたワールドツアーと翌年の『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の主題歌収録とグラミー賞受賞の様子を描いている。
この作品を見て理解したのは、彼女の音楽に本当に深く共感しているのは、ビリーと同じくリストカットを繰り返すようなティーンエージャーの少女たちだと真に理解した。ビリーの曲は内省的な歌詞が多いが(映画のメリットは歌詞に和訳がつくこと)、「なぜハッピーな曲を作らないのか」と問われ、ビリーは「ハッピーになったことがないから」と答え、ライブ会場の外で出待ちするファンの子が「あなたの音楽が私の命を救った!」と叫び、会場ではファンの女の子たちが肩を抱き合い涙を流していた。
作品中、リアルなビリーの姿がそこにはあった。ジャスティン・ビーバーの大ファンであり、ジャスティンと出会うシーンでは、ハグされて大泣きする姿は普通の少女だった。また彼氏の「Q」(7:AMP セブン・アンプ)にベタぼれで、付き合っている間は常に求めていながら、別れはかなりあっさりしていたのも若さを感じさせた。結構ヴィトンが好きなんだなとも感じた。
音楽活動では兄のフィニアスの存在はプロデューサー以上のものがあり、彼の部屋でのレコーディング風景からビリーの音楽は彼らの共同作業の産物だと理解できた。そして作品を通して、家族がみな「チーム・ビリー」として行動していたことが印象的だった。
17-18歳にして世界的スーパースターになった少女のリアルな生活を垣間見て、普通でいることの難しさとそれを家族が「普通の女の子でいさせている」ことが伺え、とても興味深かった。ビリー・アイリッシュの音楽もふんだんに聞くことができ、ミュージシャンを扱ったドキュメンタリーとしては良質の部類に入る。
★★★★★★★ (7/10)
