『ノー・アザー・ランド故郷は他にない』 (2024) バーセルアドラー/ユヴァルアブラハーム監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

パレスチナ人バーセル・アドラーは、被占領パレスチナ地区でイスラエル軍によるパレスチナ人の強制移動に長らく抵抗し、イスラエル軍の暴挙を映像に収めてきた。その映像には、戦争の渦中、イスラエル軍による家屋の破壊や強制立ち退きの危機に村の存続が危ぶまれる現実に直面するパレスチナ人の翻弄と苦悩が刻まれていた。そしてイスラエル人ジャーナリストのユヴァル・アブラハームと敵対する国同士でありながら親交を深めていく。

 

多くの日本人にとって中東の情勢は「対岸の火事」とまでは言わないまでも、複雑な背景ゆえ理解しずらい問題だろう。自分もそうした日本人の一人。ここしばらく、連日のようにガザへのイスラエル侵攻とパレスチナ人に対するジェノサイドが報じられながら、まだ肌感覚で何が起こっているか感じ取ることが難しい状況。それでも四半世紀前のセプテンバー・イレブンの時とはかなり風向きは変わってきたと言える。

 

セプテンバー・イレブン当時は衝撃的な映像に「なぜこのような常軌を逸した行動を人間が取りうるのか」と理解できなかった。イスラム過激派は狂信的な殺人者としか見ることができなかった。しかし少しずつその背景と歴史を知ると自分の中で思い出されたのが、大江健三郎の言葉。彼は徹底した反核論者だったが、広島・長崎の原爆投下においては(もちろん加害者側の蛮行の非を責めながらも)その状況に追い込んだ側の責任も考えなければならないとした(評論『あいまいな日本の私』の中ではなかっただろうか)。ただ単に被害者として非難するだけでは歴史の理解はできないという示唆は感銘すら覚えた。

 

戦敗国であり安全保障をアメリカに大きく依存する国として、政治的にはアメリカの国際政策には追随せざるを得ず、表立ってはイスラエルの蛮行を非難できないようだが、パレスチナ人が長年住んできた土地を追われることがいかに間違ったことかは理解しているだろう。その強制立ち退きの現状を目の当たりにするのがこの作品。ある日突然武装した軍隊が生活の場に現れ、自分と家族が住む家を壊すことがいかに理不尽なことか。その現状を身の危険を冒しても映像に収めようとする若者がこの作品の主人公となっている。

 

この作品がアメリカの代表的な映画賞であるアカデミー賞の長編ドキュメンタリー映画賞を受賞したことは、アカデミー会員がいかにリベラルであるかを表しているだろう。トランプ政権により自国偏重主義と右傾化が危ぶまれるが、そうした時代だからこそ価値がある作品と言えよう。

 

イスラエル人ジャーナリストとの、政治や宗教を越えた正義・平和を共通理念として分かり合う友情をもっと映像として前面に押し出せば、もう少し物語的にはドラマチックだったかもしれないが、よりニュートラルな描写はそれはそれでよしとすべきなのだろう。今日の世界を知るためには観るべき作品と言えるだろう。

 

★★★★★★ (6/10)

 

『ノー・アザー・ランド故郷は他にない』予告編