この8月に池袋シネマ・ロサ一館でのレイトショー1回で上映が始まると、口コミで評判が広まり、全国拡大上映されている作品。安田監督は一人で監督・脚本・撮影・照明・編集など11役をこなし、ヒロイン山本優子を演じる沙倉ゆうのは作品の中では助監督役だが実際にもこの作品の助監督を務め、スタッフは当初10人程度。制作費2,600万円という自主制作映画ながら驚くほどのクオリティ、しかも時代劇という限られた制作費ではかなりハードルが高い題材。
ストーリーは、監督が宝くじのCMに着想を得たという、幕末の侍が現代にタイムスリップするというもの。自らの剣の腕を頼りに「斬られ役」として新たな人生を歩むコメディ。
タイムスリップという幾分手垢がついた設定。落雷によるタイムスリップは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のオマージュだろう。使い古された設定ながら、ストーリーはとても面白い。タイムスリップしてきた高坂新左衛門は、作品中で一度も自分がタイムスリッパ―であることを明かしていない。そして彼が幕末の侍魂をそのままに現代に適合しようと努力するところが実にほほえましく、勇気づけられる。そしてストーリーの面白さがギアアップするのが、かつて時代劇で名をはせながら一旦時代劇から身を引いたスター俳優風見恭一郎が登場し、彼の素性が明かされるくだり。
前半のコメディ中心の展開はかなりベタだが(特にお寺の住職のおかみさんのノリは吉本新喜劇)、それでも鼻白ませず見せてくれたのはこの作品が初主演となる山口馬木也の演技がよかったから。キャラクター本人になり切って演じるメソッド演技が効果的だった。ケーキを食べて泣くシーンでは、現代にタイムスリップしてきた本物の侍が泣いていた。
新たな時代劇映画を作るという後半パートで、若干作品のトーンは変わってくる。新左衛門が過去の自分を振り返ることで、その時代に生きた憂国の士の熱い思いを見ることができた。そして、それこそが時代劇の真骨頂なのだと理解した。新左衛門は会津藩士であり、会津藩は佐幕派の急先鋒。彼らが大政奉還を経て戊辰戦争で敗れた結果「朝敵」となってからの処遇を現代になって知り新左衛門は涙する。この江戸末期から明治維新まで世が大きく転換する時代の佐幕派 vs 倒幕派というドラマを盛り込んだことが、作品に厚みを与えていた。この作品は単なるコメディではなく、立派な時代劇になっていた。
監督は、この作品の裏テーマを「時代劇史上最も、真剣を使って戦っていると思わせる映画」と言っているが、それは成功していたと思われる。クライマックスの殺陣はお互いの殺気がぶつかる迫力があった。
そしてこの作品の成功の鍵は、東映太秦の時代劇制作スタッフが自主制作チームに全面協力したこと。自主制作で映画を作りたいという映画愛と時代劇を作らせたら超一流の仕事をするというプロフェッショナルの矜持の融合によって生み出された作品と言える。
現代の我々がもしタイムスリップしたならば「これはもしや」と思うかもしれないが、江戸時代ではタイムスリップという概念は理解不能だったはずで、新左衛門が過去から140年タイムスリップしたということは一日やそこらでは理解できないはずというツッコミは野暮だろう。
自主制作映画での大ヒット作として『カメラを止めるな』が引き合いに出されるが、ネタバレ厳禁と言いながら開始後ものの数分で先の展開が読めてしまった『カメ止め』よりも、こちらの作品の方がはるかに面白く、自主制作という軽量級のスタッフが時代劇という大ジャンルに新風を吹き込む快作だった。
★★★★★★★ (7/10)
