『BLUE GIANT』 (2023) 立川譲監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

原作は「音が聞こえる漫画」として絶賛された『ビッグコミック』連載石塚真一作のマンガ。映画化された本作も評価は高く、原作未読の自分でも納得できる素晴らしい作品。ではあるが、少し引っ掛かる点もあった。

 

原作を読んでいるファンの中に、ジャズを日頃聴いている人はそれほどいないのではないだろうか。そうしたジャズの経験値の低い読者であっても、演奏の良し悪しを見分ける耳が必要でないことが漫画の強み。ストーリーや画力に説得力があれば、「天才的な演奏」「世界に通用する演奏」を作り出すことができる。

 

しかし実際の音が観客に届く映画ではそうはいかない。やはりその音楽そのものに高いレベルのクオリティが求められる。自分はジャズには全く門外漢なので、「日本人アーティストで初めて8年連続NYのブルーノートで1週間公演を成功させている」上原ひろみ氏の名前すら知らなかった。そうした者に彼女の演奏のクオリティなど分かるはずがない。映画を観ながら、登場人物のリアクションから「これは多分すごい演奏なのに違いない」と思っていたが、それをリアルに感じられる人とは当然感動のレベルは違っただろう。

 

これが同じ漫画の映画化作品である『THE FIRST SLAM DUNK』と比較すると、音のない漫画から音のある映画にすることの違いがはっきりする。映画で印象的だった音は、バスケットコートをシューズがこする音やドリブルのボールの音。漫画ではそれほど印象に残らないそれらの音が映画では耳に残った。音のある映画という表現方法がメリットでしかない例と言えよう。

 

上原ひろみ氏ほかの演奏をリアルに「すごい!」と感じられるジャズ愛好家と感動のレベルは違うだろうことは前提として、この作品のよさはよく出来た「バディ・ムービー」になっていること。それは原作のストーリーのよさによるところだろう。そして、この作品での主人公は宮本大ではなく、沢辺雪折。彼の挫折からの復活がこの作品のストーリーのコアであり、最もムネアツなパートだった。彼がコットンクラブで「内臓をひっくり返す」ほどの演奏をして、椅子から立ち上がりながら演奏する姿を観て涙を流さない人はいないのではないだろうか。そのシーンだけではなく、演奏を聴く観客に知った顔が混じり、彼らが演奏を聴きながら涙を流すのは、こちらももらい泣きをするかなりズルい設定だった。

 

好印象脇キャラのワンツーは、JASSのソー・ブルー公演が決まった報告を聞いて後ろを向きながら涙した「TAKE TWO」のアキコさんと、玉田に「ボクは君の成長するドラムを聴きに来ているんだ」という名もないおじいちゃん。

 

玉田がコカ・コーラの缶を叩いたのが夏のある日で、JASSのソー・ブルー出演は翌年12月13日。さすがにど素人が1年余りで「それはマンガだろ」と突っ込むところだが、原作が漫画なのでご愛敬か。

 

よく出来た作品。ジャズを知らない人でも十分楽しめるが、多分ジャズを理解している人はその10倍は楽しめるだろう。

 

★★★★★★★ (7/10)

 

『BLUE GIANT』予告編