『武士道残酷物語』 (1963) 今井正監督 | FLICKS FREAK

FLICKS FREAK

いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

戦後日本映画の左翼ヒューマニズムを代表する名匠・今井正監督。『また逢う日まで』(1950)、『にごりえ』(1953)、『真昼の暗黒』(1956)、『米』(1957)、『キクとイサム』(1959)と1950年代の10年で5回もキネ旬ベスト・テンの第一位に輝いていることからも当時はかなり高く評価されていたことが分かる。この作品もキネ旬ベスト・テンの第五位に評価され、ベルリン国際映画祭では最高賞の金熊賞を受賞している。

 

日本人に根強く残る武士道精神の系譜を、ある一家の安土桃山時代から現代までに至る七代の歴史を七つのエピソードで綴り、血塗られた忠義の歴史を異常残酷なタッチで描いた作品。 七つのエピソードの主役を全て中村錦之助が演じているのが特徴的。

 

建設会社に勤める飯倉進の婚約者が、睡眠薬で自殺を計った。その知らせを受けた進は、先祖の日記に綴られた世にも残酷な歴史を思い出す。そこには、己を犠牲にして主君や国家に仕える飯倉家代々の物語が記されていた。主君をかばって切腹した次郎左衛門、侍の忠義を守り割腹自殺した佐治衛門、不義の責任を問われて男根を去勢された久太郎、老中へ愛娘を献上した修蔵、日清戦争で戦死した進吾、第二次世界大戦で特攻隊員の任務を果たした進の兄・修。そして今、会社と出世の為、ライバル会社に勤める婚約者を利用し、彼女を自殺へと追いやった進。彼は、自分が飯倉家の残酷な歴史を繰り返そうとしていることに気付き、愕然とする。

 

武士の物語だと思って観出すと、オープニングがいきなり現代のシーンなので驚かされる。そこから飯倉家代々の日記を読んだ回想により過去へと移行し、最後は現代に戻る輪環構造。

 

武士道というと日本文化における美徳のように聞こえるが、そこは左翼ヒューマニストの今井正のこと。かなり痛烈な批判精神に満ちている。主君・国家に仕えることが人としてあるべき道というより、異常なまでに理不尽な権力の抑圧があり、それにほぼ無批判に(心情的には相当な抵抗があるはずにも関わらず、それを押し込めてしまう)受け入れる姿を現代の人間が見てどう思うかを問うている。

 

第四話まではまさに武士の時代の話。日本刀や切腹が似合う時代背景であり、迫力満点の映像に圧倒された。第五話は明治時代、第六話は第二次世界大戦、第七話が現代パートなのだが、第四話までに比べるといささか駆け足で、説得力にも欠けていたことが難点。特に現代では、会社のためとはいえ利己的な動機もあり、忠義という美名のもとに犠牲となった人の悲しい歴史というテーマには少しそぐわない印象。

 

それでも個人的には、1950年代にキネ旬ベスト・テンの第一位となった先に挙げた5作品よりはよかった(5作品の中では『真昼の暗黒』がベスト。『にごりえ』がそれに続く)。

 

★★★★★★ (6/10)

 

『武士道残酷物語』予告編