『ウーマン・トーキング 私たちの選択』 (2022) サラ・ポーリー監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

この作品には色々な意味で驚かされた。作品の中では、この作品の舞台が「いつ、どこで」ということが明示されず、「いつ」に関しては中世~近世、「どこで」に関しては(南十字星が見える)南半球の小さなコミュニティだろうと思って観ていた。

 

後から見た予告編で「いつ」が明らかにされているのでネタバレというほどでもないのだろうが、それを知って観ていたとしても、そのイメージギャップには驚かされただろう。何しろ舞台となっているコミュニティでは、電気を使わず、移動手段は馬車、衣服はいかにも手作り、そして女性は読み書きの教育がされておらず皆文盲であり、レイプされていても悪魔の仕業と思い込んでいるという状況なのだから。

 

作品で描かれているコミュニティは、メノナイトというキリスト教教派の宗徒。アーミッシュの印象だったが、調べるとアーミッシュはメノナイトの分派らしいので、ざっくりと、16世紀の宗教改革当時の生活をする敬虔なクリスチャンという理解でいいのだろう。

 

そして更に驚かされたのは、この作品の原作は事実に基づいた小説だということ。原作は、2018年というごく最近に発表されたミリアム・トウズによる『Women Talking』。作者も元メノナイト信者で、実体験が反映された小説。

 

作品は、閉鎖的な社会において権力者が弱者を虐待することが起点になっている物語。男性が女性を性虐待することがモチーフになっているが、この作品の視野は、それにとどまっていない寓意性を含蓄しているように感じた。

 

時代は現代でも、原始社会の様相を色濃く残すコミュニティを舞台とすることで、その加害者 vs 被害者の構図やその逆境をいかにはねのけるかという物語は俄然普遍性を帯びてくる。そして意見の対立(被害者女性が選びうる選択肢は「赦す」「戦う」「去る」)を対話によって解決に導くという物語も、現代のあらゆる問題に通用するものだろう。

 

この非常に狭い世界のごくごく稀有な事件を取り扱った作品に、人類の歴史で繰り返された抑圧の物語と未来志向的な人の逞しさを感じ、感動すら覚えた。そして、いかにも一般受けしなさそうなこの作品がアカデミー作品賞にノミネートされたことに、アカデミー会員の幅の広さを感じた。

 

この作品はブラッド・ピットが所有する映画制作会社「プランBエンターテインメント」の作品。かなり尖った作品を制作する印象だったが、それを再確認した。

 

主要な出演者はほとんど女性なのだが、ベン・ウィショー演じるオーガストが唯一男性として作品の中で重要な役割を担っている。ダニエル・クレイグ007でQがはまり役だった彼だが、レイプされた女性に思いを寄せる男性を演じている。その張り裂けんばかりの胸中に思いを至らせれば、物語は深みを増すだろう。

 

監督のサラ・ポーリーは、女優としていくつかの印象的な役を演じている。『ドーン・オブ・ザ・デッド』(2004)はジョージ・A・ロメロの不朽の名作『ゾンビ』の優れたリメイク。そうしたジャンル映画にも出演するかと思えば、『死ぬまでにしたい10のこと』(2003)や『あなたになら言える秘密のこと』(2005)といったシリアスなヒューマン・ドラマの傑作にも出演している。そして監督としては本作は10年ぶりだが、前作の『物語る私たち』(2012)は彼女の個人的な家族の物語を描いた秀逸なドキュメンタリーだった。映画監督としてこれからも期待されるべきだろう。

 

誰にでもはまる作品ではないが、観る価値は大きい作品。『西部戦線異状なし』優勢と見られていた下馬評を覆してアカデミー脚色賞を受賞した作品だけのことはある。

 

★★★★★★ (6/10)

 

『ウーマン・トーキング 私たちの選択』予告編