『パリ、ジュテーム』 (2006) オムニバス作品 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

個人的には言葉(英語)が通じない土地に旅行するのが苦手で、フランス人は自分の都合が悪くなると英語が話せないふりをすると思っているので、これまでのフランス旅行ではあまりいい思いはしていないが、パリはフランスでも別格な場所というのがこれまで4回訪れた印象。同じ世界的な都市ではニューヨークは住まないとそのよさは分かりにくいが(多分、東京もそう)、パリは観光で気分は上りまくる特別な雰囲気を持った都市だと思う。

 

パリは20区に分かれており、区の名称は市の中央部から時計回りに螺旋を描くようにして各区に付けられた番を基にしている。この作品は、その20区を舞台に20人の監督が「愛」をテーマに5分余りの短編を紡いだオムニバス作品(上映版はそのうち18の区を舞台にした18本の短編からなる)。

 

ストーリーにつながりがないオムニバス作品(特に5分余りというショートムービーを編集した作品)では、ストーリーの深掘りができず散漫な出来になることが少なくない。しかし、このオムニバス作品はどの作品も驚くほど水準が高く、「この短編作品はなくてもいいな」というものは1つ2つしかなかった。

 

もしパリの土地柄に精通していたならば、各区の特徴を理解していることにより作品の背景が分かるのだろうが、それがなくても(自分はそうした土地勘を持ち合わせていなかったが)十分楽しめる作品群だった。

 

(自分が鑑賞した上映版の)18本の短編の中では、特に傑出していたのは第19区「お祭り広場」。監督はオリヴァー・シュミッツ。第19区は第20区同様移民が多い区。主人公は移民のブラックの青年。彼は第19区にあるフェット広場(「プラス・デ・フェット」)で事件に巻き込まれるのだが、介護に当たった介護士の女性との束の間の心の交流を描いている。5分余りという凝縮した時間に珠玉のドラマが盛り込まれていた。オリヴァー・シュミッツ監督の作品はこれまで未見だが、最新作の『羊飼いと屠殺者』 (2016)は日本でも観ることができるので近々鑑賞してみようと思う。

 

それに次ぐのは第5区「セーヌ河岸」。監督はグリンダ・チャーダ。第5区はカルチェ・ラタンがあるようにパリ有数の学生街。セーヌ河岸でナンパをしていた学生グループの一人が、たまたま出会った中東系の女性との出会いを描いている。ヒジャブは素の自分を隠すものだと思っていたフランス人青年に対し、ヒジャブをつけると自信が沸いてむしろ自分らしくなれるという女子学生の言動が新鮮だった。

 

ガス・ヴァン・サント、ジョエル&イーサン・コーエン、アルフォンソ・キュアロン、ヴィンチェンゾ・ナタリ(『キューブ』の監督)、ウェス・クレイヴン(『エルム街の悪夢』『スクリーム』の監督)といった監督の作品も観ることができるこのオムニバス作品はかなりお得感のある秀逸な作品だと言える。観て損はない。

 

★★★★★★ (6/10)

 

『パリ、ジュテーム』予告編