『ザ・ファイブ・ブラッズ』 (2020) スパイク・リー監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

スパイク・リー最新作はNetflixオリジナル。ベトナム戦争帰還兵を主人公とする作品。黒人はアメリカ人口の11%だが、ベトナム戦争に従軍した米軍兵士の中では32%を占めているという事実から、ベトナム戦争に黒人差別の問題をからめた着想は面白かった。

 

スパイク・リーは、ハリウッドのメインストリームにいながら、常に黒人差別の問題をアグレッシブに扱ってきた。彼のプロテスト精神は作品のみならず、直接的にも語られ、映画業界内外に影響を与えてきた。第88回(2016年)アカデミー賞ノミネートに際して、演技部門の候補者20人が2年連続で全員白人だったことに、「オスカーは白過ぎる」と批判したことはその最たるものだろう。それ以降、ハリウッドは人種差別の問題によりセンシティブになってきた。2024年の第96回アカデミー賞から、作品賞選考基準にマイノリティ起用を条件とすることが盛り込まれることになったのも、その影響だと思われる。

 

日本人にとっては比較的縁遠い黒人差別の問題だが(差別の問題は厳然としてあるが、肌の色の違いではないため想像力が働きにくい)、スパイク・リーを始めとした黒人差別の問題を扱った映画を観ることで、卑近な問題として考える想像力が養われたように感じる。もしそうしたことがなければ、『グリーンブック』を観ても「ああ、いい映画だな」としか思わなかっただろう。その感覚は、今から30年前、『ドライビングMissデイジー』がアカデミー賞作品賞を受賞した当時であれば普通だったかもしれないが、今日、もう少しマイノリティの問題にはセンシティブになっていなければならない。『グリーン・ブック』が作品賞を受賞した瞬間、スパイク・リーが激怒して席を立った(結局は周りに取りなされたらしいが)ということを聞いた時は納得したものである。

 

この作品、前半はスパイク・リーらしい風刺が効いた娯楽性が高いものだと感じられたが、後半、ベトナムのジャングルに入ってからは様相を異にする。ベトナム戦争のPTSDに、戦時に埋蔵した金をめぐっての現在の争いが重なって、かなり陰鬱な印象になっている(映像もエグい)。個人的には、前半の軽妙なトーンを保ちつつ、人種問題をもっと深く捉えてほしかった。スパイク・リーの出世作である『ドゥ・ザ・ライト・シング』(1989年)は、黒人問題を扱いながらも、イタリア系アメリカ人に脚光を当てることで、より俯瞰的に問題を描いていたように感じる。ベトナム戦争においては、黒人は確かにアメリカ国内では差別される対象だったかもしれないが、ベトナム人にとっては、やはり殺戮者のアメリカ兵であり(作品内でも「ソンミ村虐殺事件を知ってるか」という言葉はあったが)、被害者でありながら加害者という視点があればもっと深い内容になっただろう。

 

今まさに「Black Lives Matter」運動が熱い今日、スパイク・リーであれば、もっとインパクトのある作品が撮れたのではないかと思った。

 

『ザ・ファイブ・ブラッズ』というタイトルながら、ベトナムを再訪するベトナム帰還兵は4人で、残りの一人はベトナム戦争中に「戦死」した彼らの隊長。演じているのは『ブラックパンサー』主演のチャドウィック・ボーズマン。今年8月に結腸癌で他界した彼の生前最後に公開されたのがこの作品となる。彼の遺作として『Ma Rainey's Black Bottom』が、今年12月にやはりNetflixで公開が予定されている。

 

★★★★★ (5/10)

 

『ザ・ファイブ・ブラッズ』予告編