『天気の子』 (2019) 新海誠監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

『君の名は。』の世界的ヒットから3年を経た新海誠監督最新作。

 

『秒速5センチメートル』(2007年)のファンだった自分にとって、前作は公開直後に鑑賞した当初ピンと来なかった。恋愛物として見た場合に決定的な欠陥があると感じたからである。それは、所詮すれ違ってしかいない二人が運命的なものを感じるという思い込みの強さの違和感だった。また、平安時代の『とりかへばや物語』以来使い古されてきた男女入れ替えの設定に新鮮さを感じなかったことや、ハッピーエンドの予定調和も自分の好みではないと思った。しかし、2年後に再鑑賞して、時空を越えた救命映画として見れば(同じく恋愛物としてはかなりウィークだがアクション&パニック救命映画としてはよくできた『タイタニック』のように)優れた作品だと再評価した。

 

そして本作。前作の大ヒットの後ではプレッシャーも相当あったであろう。結論から言えば、前作を越えるヒットにはならないだろうが、この作品が自分にとっての新海作品のベストだと感じる。

 

新海作品のエッセンスとは「都会と田舎の対比とそれらの美しく懐かしい抒情的情景、それに宇宙を加えた、時間軸と空間軸でスケールの大きな背景に、恋愛成就未満の一番どきどきする美しい時間を描く」というもの。それは前作でも当然踏襲されていたが、前作は大衆受けを狙ってデビュー以来の5作に比してよりハッピーな雰囲気を前面に出していた。本作は、以前の新海らしさを強く感じさせる作品であり、それが自分の好みであり、それが前作を越えるヒットにはならないだろうという理由である。

 

家出少年、銃刀法違反、風俗嬢スカウト、ラブホといった設定は、かなり攻めたものだと感じた。そして、歌舞伎町のゴミ箱の横で寝るシーンやラブホでインスタント食品をごちそうだと言って食べるシーンといった、実写であれば相当世知辛くわびしい状況も、アニメ・マジックでそれほど寂しく感じなかったのは興味深かった。

 

新海作品での弱点であった作画の弱さは圧倒的にインプルーブしていた。神宮外苑花火大会のシーンでの花火や頻繁に描かれる水滴の美しさは特筆すべき。

 

そしてこの作品のよさは、バッドエンド?と思わせるセカイ系のエンディングに集約されるだろう。「傷ついた少女(=きみ)」と「無力な少年(=ぼく)」の極小化した純愛世界が、世界の危機(ここでは東京に3年間振り続ける雨)を超越しているというセカイ系の王道を行くエンディング。『君の名は。』では選択によって救済されたものが、この作品では選択によって救済されていない。「人柱一人で狂った天気が元に戻るなら大歓迎」という「救済」を否定したのが本作のエンディングであり、多くの人がハッピーになることよりも「ぼく」一人がハッピーになることの方を優先したエンディングを自分はより好ましいと感じた。

 

また、主人公以外の登場人物のキャラクターが立っていて(須賀圭介、夏美、「先輩」天野凪)、作品に深みを与えていた。しかし、『君の名は。』とのクロスオーバーを狙ったのであろう立花瀧や宮水三葉(声優は前作と同じく神木隆之介と上白石萌音)を登場させる必要は全くなかったのではないだろうか。

 

高校生や大学生(あるいは同じマインドの万年青年)にターゲットを絞った新海作品は、より幅広い(特に大人の)層をターゲットにした細田守作品ほどには個人的には評価していないが(細田作品のベストは2015年の『バケモノの子』)、ピュアラブを夢見る人には前作同様刺さる作品であろう。前作比の優劣は好みの問題。

 

★★★★★★★★ (8/10)

 

『天気の子』予告編