『天国と地獄』 (1963) 黒澤明監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

大手製靴会社ナショナル・シューズの権藤専務は、自分の息子と間違えられた運転手の息子が誘拐され、身代金3千万円を要求される。秘かに自社株を買い占め会社の実権を奪う目論見を持っていた権藤は、自社株購入資金となるはずの身代金支払いを拒否しようとするが、彼の逡巡を見透かした秘書の裏切りにあい、一転、権藤は犯人の要求を飲むことを決意する。無事子供は取り戻したが、犯人は巧みに金を奪って逃走し、権藤は会社を追われてしまう。

 

黒澤明監督の傑作の一つと呼び声も高い作品。しかし、自分にとってはイマ一つという作品だった。

 

確かに、三船敏郎演じる権藤が誘拐犯の要求を飲むべきか飲まざるべきか苦悩する前半は実にスリリングだった。自分の子供ではないからといって、子供を見殺しにすることもできない、しかし、虎の子の3千万を出せば彼のキャリアは終わってしまう。子供を取り違えても、権藤は取引に乗らざるを得ないと踏む誘拐犯の狡猾さもなかなかよく描かれていた。

 

そして犯人に解放された運転手の子供・進一に、権藤が「進一!」と叫びながら駆け寄るシーンは感動的だった。

 

しかし、刑事役の仲代達矢と犯人役の山崎努が主演する後半は、完全に失速。あまりにも権藤が善の人と持ち上げられ過ぎ、犯人を検挙することが「権藤さんのため」と連呼する警察の噓臭さが鼻についたから。

 

また、山崎努演じる誘拐犯は、貧乏に喘ぐインターンという設定だが、彼がいかに「地獄を見てきた」かが描写不足で、彼のルサンチマンに説得力がない。死刑宣告前に母が死去したという誘拐犯の言葉から、母子家庭の苦学生という想像はできるが、なぜ彼がそれほどまでにブルジョワを憎まなければならなかったのか。自分の将来も棒に振り、複数の殺人を犯してまで、なぜ誘拐を行ったかの動機の描き方が弱いと感じさせられた。

 

いまだ黒澤全三十作を制覇してはいないが、これまでのところ彼の作品の個人的ワン・ツーは、『七人の侍』と『赤ひげ』

 

★★★★★ (5/10)

 

『天国と地獄』予告編