『Devilman Crybaby』(2018) 湯浅政明監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

好きなマンガのベスト3と言えば、ちばてつや『あしたのジョー』、池上遼一『男組』と永井豪の『デビルマン』を挙げる。

 

本作品は、漫画版『デビルマン』のアニメーション作品として初めて、物語の最初から結末までが描かれたもの。2018年1月5日からNETFLIXで全世界同時ストリーミング配信された。オリジナルをこよなく愛する者にとっても、この作品はとてもよかった。

 

細かな設定は現代的にアレンジされているが、基本的なストーリーはオリジナルに比較的忠実。堕天使サタンが太古の地球に降り立った時には先住人類である悪魔が地球を支配していた。しかし、彼らが眠りについている間に人類が地球を席巻。悪魔は200万年の眠りから目覚め、地球を人類から取り返そうとする、というもの。しかし、作品の印象はかなりオリジナルとは異なると言っていい。

 

地上波放送のような制約を受けないため、オリジナルと比較してもバイオレンス度300%増し、エロティック度500%増しということもその理由の一つ。そしてそれ以上に、ストーリーが飛鳥了=サタンの物語として進行していることが挙げられるだろう。オリジナルでは、飛鳥了がサタンであることを自覚して混乱する場面があるが、この作品では、早くからサタンとして覚醒していたように描かれている。そして、物事の展開が始終彼の意図した通りに進んでいったことがより明確にされている。そのためストーリーの整合性は高くなっていると言えるが、気付かなかった疑問も生じた。悪魔はいろいろな生物と合体することでパワーアップする。その能力を用いて悪魔が人類殲滅のために取った方法が無差別合体なのだが、その合体により心まで支配されれば悪魔となるが、心が人間のままであればデビルマンとなる。サタンが、不動明とアモンを合体させた時には、不動明の心が打ち勝つとは分かっていなかったはず。アモンのデビルマン化や、その後の人類滅亡後のデビルマン軍団とのハルマゲドンまで想定していたとは到底思えないのだが。

 

またオリジナルと比較して、牧村美樹の重要度はぐんと高まっている。中盤、彼女の陸上部での活動を中心とした高校生活が描かれ、学園物のような雰囲気すらある。彼女の存在や行動がこの作品の一つのテーマである「愛は地球を救う」(というと、24時間テレビのタイトルのようだが)を表している。この普遍的なテーマを具現化した存在として、彼女をハーフ(父親は非日本人のノエル)としたことは効果的だったと思われる。

 

そしてサブタイトル(「crybaby」 =泣き虫)にあるように、不動明=デビルマンはよく泣いている。その涙は他人のために流すものであり、自分のために流すものではないという、強さと優しさを兼ね備えた存在として不動明=デビルマンが描かれているが、生物学的には人間とは言えないデビルマンが「最も人間らしく」描かれていることによって、人間が人間足りえる存在意義を示しているように受け止めた。そして、牧村美樹を惨殺した暴徒は、人間でありながら、悪魔的存在であるからこそ、「人間は殺さない」と始終叫ぶデビルマンが彼らを怒りで焼き殺すということがあり得るのだろう。

 

主要な登場人物が全て死んで終わるというかなりセンセーショナルな内容はオリジナル通りなのだが、本作品ではさらにエモーショナルに描かれている。特に心に残るのは、美樹の弟の太郎(オリジナルでは健作、「タレちゃん」)が悪魔に憑りつかれ、食欲を抑えられずに母親を食べてしまうシーンで、それを目撃した父親のノエルが彼を殺すに殺せなく泣き叫ぶシーン。トラウマレベルの切なさだった。

 

悪魔の造形はエヴァンゲリオンの使徒よろしく、かなり適当で、それはそれでいいのだが、オリジナルでも特に印象的だったジンメンの人を食べるとその顔が甲羅の一つになるという点は変えてほしくなかった。「なぜ腹側なんだ!」というのはファンなら誰しも感じるはず。

 

暴徒が悪魔化し、殺戮を犯すという世紀末的な怖さはオリジナルの方が上だったように感じた。それが永井豪の画力なのだろう。そして、この作品は、オリジナルを本歌取りしながら新たな境地を開拓した秀作と言える。

 

デビルマンのファンを自認する方には是非観てほしい作品。

 

★★★★★★★ (7/10)

 

『Devilman Crybaby』予告編