『マッドバウンド 哀しき友情』 (2017) ディー・リース監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

第二次世界大戦中のミシシッピ州。ヘンリー・マッカランは綿花農場を購入し、貧しいながらも妻のローラと娘二人を養っていた。その後、ヘンリーの弟のジェイミーが彼らと一緒に住むことになるが、彼にはヘンリーの持っていない陽気さや人懐っこさがあった。ヘンリーが購入した土地には、代々黒人のジャクソン家が住んでおり、家長ハップのもと、よりよい生活を求めて粘り強く働き続けていた。マッカラン家からはジェイミーが、そしてジャクソン家からは長兄のロンゼルが従軍することになった。彼らはそれぞれ受勲した戦争の英雄として帰還するが、ジェイミーはPTSD、ロンゼルは南部に根深く染みついた人種差別に悩まされていく。彼らは共通の経験をした者同士、友情を深めるが、町の白人たちはそれを快く思っていなかった。ヘンリーとジェイミー兄弟の父もその一人であった。ロンゼルは従軍中ドイツに恋人がいたが、彼女から彼の子供が生まれたことを知らされる。その手紙に同封されてあった写真を、偶然ヘンリーとジェイミー兄弟の父が見つけたことから悲劇が起こる。

 

2017年1月のサンダンス映画祭のプレミア上映に先立って、A24とアンナプルナ・ピクチャーズが本作の配給権の獲得に乗り出していたが、最終的に配給権を獲得したのはNETFLIXであった。この三者が、今日のアメリカ・インディーズ系映画のディストリビューションの中心。

 

NETFLIXは自身が配信する作品をオスカー選考対象とするため、1週間だけ劇場公開して、ルールをクリアしている。この作品も全世界で配信が始まる前の2017年11月にロサンゼルスとニューヨークで、1週間だけ公開されている。NETFLIXとしては、オリジナル映画の評価が高ければ契約者数が増えることに直結するため、これからも積極的に評価の高い作品の配信をしていくと考えられるが、広く劇場公開されていない作品が映画賞の対象になることには批判が少なくない。アマゾンのような流通改革が書店を圧迫していることを考えると、ストリーミングによる映画視聴の普及が映画館の経営に影響を与える問題には複雑な思いである。

 

そのNETFLIXオリジナルの作品の中で、これまでで最も評価の高い作品が本作であろう。今年のアカデミー賞にもノミネートの可能性が噂されているほど。この作品は、2008年に発表された小説『Mudbound』(ヒラリー・ジョーダンの処女作)を原作としている。

 

ストーリーが登場人物の内的独白によって進行していくのが原作の特徴なのだが、映画も同じ体裁を取っている。その語り手が代わることと、時系列の入れ替えがあることで、前半は少々ストーリーが分かりずらかった。しかし、主人公二人が戦争から帰還して友情を育む展開になってからは、ぐっと面白味が増した。

 

二つの家族が同じような境遇を経験しながらも、そこから進む運命が異なるというところがミソ。勿論それは、人種差別が大きく影響している。当然、黒人のジャクソン家により辛い結果になるのだが、最後まで黒人が辛いという結果に終わらないところがこの作品の面白いところ。エンディングで希望を見せてくれる。

 

第二次世界大戦中のアメリカは今だ公民権運動の始まる前で、例えば映画『デトロイト』(2017年)が描いていた1960年代後半よりも更に人種差別は厳しい状況だった。ヨーロッパを戦場とした戦争という厳しい場から帰還した母国のアメリカが、黒人にとってはもっと厳しかったというパラドックスがよかった。

 

NETFLIXを契約している人は見逃すべきではないだろう。

 

★★★★★ (5/10)

 

 

『マッドバウンド 哀しき友情』予告編