『ドニー・ダーコ』 (2001) リチャード・ケリー監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

考えれば考えるほどよく作られた映画(ただ一つの矛盾点を除けば)。タイム・トラベルによって運命を変えることができるのかというのが基幹のテーマ。

 

1988年、マサチューセッツ州。情緒不安定により医師の治療を受けている高校生のドニー・ダーコ(ジェイク・ジレンホール)は、両親と大学受験を控えた姉、幼い妹の5人で暮らしている。ある深夜ドニーは、頭に響く自分に呼びかける声を聞きベッドを抜け出す。夢遊病者のように家の外に出ていくと、そこでドニーを待っていたのはフランクと名乗る銀色のウサギだった。フランクはドニ―に「世界の終わり」が迫っていると告げる。あと28日6時間42分12秒が「世界の終わり」までに残された時間だった。翌朝、ドニーは近くのゴルフ場のグリーン上で目を覚ます。彼が自宅に戻ると、落下してきた飛行機のエンジンがドニーの部屋を直撃しており、自宅の屋根が半壊していた。

 

(以下ネタバレ)

フランクは、ドニー・ダーコの破壊衝動が擬人化したダークサイドと考えられる。そして自分の中のダークサイドを客観視することで、自分の行為を「フランクにやらされたこと」と自分の中に逃げ道を作っている。ドニーは、フランクの声に従うことは彼にとって好ましい結果をもたらさないと感じながら、フランクに従わなければ、彼は孤独に苛まれることを恐れている。ドニーが最も恐れることは、孤独にありながら死を迎えることだった。

 

どこから飛来したか分からない飛行機のエンジンが自室を直撃したにもかかわらず、本来、部屋で寝ていたはずの彼が奇跡的に難を逃れたことは、彼にとって幸運だったのだろうか。命が助かっただけではなく、その事故の直後に彼はグレッチェン・ロス(ジェナ・マローン)という恋人を得ている。しかしその幸せは長く続くものではなく、彼は最愛の恋人を失うとともに殺人犯になるという最悪の状況に陥る。

 

その時彼が思いついたことはタイムトラベルで過去を変えてしまうこと。グレッチェンと仲良くなるきっかけは、ドニーが学校を水浸しにして休校になったため。そしてグレッチェンを連れて「Grandma Death」の地下室に行かなければ、グレッチェンも死ぬことなく、自分も殺人犯になることはない。そして自分の部屋を直撃した飛行機のエンジンは未来から飛来したことを理解し、そのエンジンと共にそのエンジンが通過した時空の通路を通って過去に戻れば、過去は変えられる。しかし、それは彼の死を意味していた。しかし、彼にとってその死は「孤独な死」ではなく、愛する者を助けるためという幸福の中での死であり、彼はもはや孤独ではなかった。

 

それが、車の助手席のグレッチェンの亡骸を見て微笑み、また死の直前にベッドの中で大笑いをしていたことを説明している。

 

結果的に、彼の選択は飛行機事故で死ぬはずだった母親と妹も助けるが(もし彼がジム・カニングハム(パトリック・スウェイジ)の家に放火していなければ、ジムの児童ポルノ犯罪も明らかになることなく、教師のキティがジムの支援活動のためにダンス・チームを引率することもなく、そうすれば母親が代わりにダンス・チームを引率することもなく、そうすれば家に残してきたドニーが心配だとその日の便で慌てて家に帰ることもなく、妹も次の日の便で帰ってきたであろうから)、どう考えても、母親と妹がその事故の便に乗っていたとドニーがタイムトラベルする時点では知り得ず、「うまく出来過ぎ」の感がある。

 

そしてこのストーリーの最大の矛盾点は、ドニーが飛行機事故のタイミングを知り得ることができたこと。この一点だけが納得いかない。タイムトラベルは飛行機事故のタイミングでしかなしえず、飛行機事故を知る時点(即ち、飛行機事故が過去となる時点)ではタイムトラベルはできないから。

 

ドニーはモニトフ物理学教師(『ER』のジョン・カーター役のノア・ワイリー)と、運命を変えることができるかどうかのディスカッションをしている。これが非常に興味深い。ドニーは未来を予見できれば変えられるはずと言い(タイムトラベルによって未来から過去に移動できれば、それは過去から見れば「未来を予見する」ことと同じこと)、モニトフは、もし運命が変えられるのであれば、それは運命ではない自己矛盾だと指摘する。そしてこの議論はモニトフが正しいことが分かる。ドニーは、自分の「選択」により運命を変えたと思っているが、既にフランクによって「世界の終わり」が予言されており、「世界の終わり」とは「『ドニーの世界』の終わり」即ちドニーの死を意味し、彼がタイムトラベルをすることも既に運命付けられていたということである。

 

近作でも『プリズナーズ』『ナイトクローラー』『サウスポー』と好演技の作品が続くジェイク・ジレンホールの出世作と言うべき作品。彼でなくては、この作品のもつ独特なタッチは生まれなかったろう。多分、「え?出てた?」というレベルの印象しかないが、若い頃のセス・ローガン(この作品が映画初出演)が見られたのはよかった。舞台に合わせた80年代ポップスも楽しめる。

 

ちなみに28日6時間42分12秒は、月の満ち欠けの一周の27日7時間43分11秒をひねったもの。

 

ダークな心理スリラー好きは見逃すことができない佳作。

 

★★★★★★★ (7/10)

 

『ドニー・ダーコ』予告編