What an amazing story!
グドゥとサル―の兄弟は極貧ながら、家族と力を合わせて生きていた。夜、普請の仕事に行く兄のグドゥに、5歳の弟サル―は頼み込んで連れて行ってもらう。しかし、仕事を探す駅に着く頃には彼は眠くなってしまった。仕方なくグドゥはサル―をベンチに寝かしてどこにも行くなと念を押して仕事を探しに行く。夜中に起きたサル―は、止まっていた列車に乗り込むと、また眠ってしまった。そして次に起きた時には、彼以外誰も乗客がいない列車ははるかかなたを走っていた。彼が列車から降りたのは、故郷から1600Kmも離れたカルカッタ。一人街をさまようサル―。数ヶ月の困難の後、彼は保護施設に収容される。そして、オーストラリアのタスマニアの里親に引き取られることに。
前半のサル―が列車に連れ去られ、オーストラリアに引き取られるまでの物語は驚きの連続。カルカッタと彼の故郷は言葉が違って会話ができないこともあり、少ないセリフで展開していく。それが、何が起こっているかを全く理解できない5歳の子供の不安が伝わる演出になっていた。
日本人の感覚だと、迷子の彼がなぜ周りの大人に疎まれ、そしてなぜすぐに保護されないのかにわかに理解できなかったが、徐々に、彼は多くのストリートチルドレンの一人だということが分かった。そうした子供を狙う人身売買のバイヤーの危険も映画では描かれている。
一人列車に揺られ車窓から見る美しい風景、そしてカルカッタの雑多とした都会の風景。それらを背景に、ただ一人で懸命に生きようとするサル―の姿は感動的ですらあった。
後半は成長したサル―が、故郷を思い焦がれ、インドの兄や母親を求める物語。そこでは、家族間の確執(里親はもう一人、インド人の養子を取っていた)が描かれ、かなり重苦しい。
成長したサル―をデーヴ・パテールが演じ、里親の母親をニコール・キッドマンが演じている。彼らの演技は高く評価され、アカデミー助演男優賞と助演女優賞にそれぞれノミネートされている。
素晴らしい作品であり、前半は完璧。問題は後半。母を訪ねて三千里の現代版なのだが、実際に放浪せず、Google Earthを使ってわずかな記憶をたどって自分の生まれ故郷を探すというもの。それだけだと弱いということで、ドラマチックに話を「盛り」過ぎな感じ。
そしてデーヴ・パテルは残念ながらミス・キャスト。演技は申し分なく、助演男優賞候補も納得するが、彼のハリウッド・スターのイメージが邪魔をして、最後の感動が若干損なわれたと個人的には感じた。彼は、「インド人俳優ならデーヴ・パテル」というtoo obviousなイメージから『ライフ・オブ・パイ』の役を逃しているが、同じ理由で本作のプロデューサーは当初難色を示したという。その懸念は正しかったのではないだろうか。本当に演技はいいのだが。
この作品は、前半だけでも観る価値大。4000人のオーディションから選ばれ、映画初出演でサル―を演じたサニー・ペイウォーには主演男優賞をやってもいい。そして思い出にも繰り返して出てくる兄グドゥとの兄弟愛が、この映画の最大の魅力だと感じた。
しかし、邦題の何と間抜けなことか。LIONの意味は、エンディング・クレジットまで分からないのだが。
★★★★★★★★ (8/10)