2017年オスカー作品賞ノミネート作品。舞台はテキサスの田舎町。トビー(クリス・パイン)は母親を失ったが、彼女が残した牧場は抵当に入っていて、$43,000を返済しなければ銀行が差押えてしまう。彼は、別れた妻と2人の子供にその牧場を残すため、刑務所から戻ったばかりの兄のタナ―(ベン・フォスター)に助けを求め、二人は銀行強盗をする。彼らは次々と小さな銀行の支店を襲い、少額を奪って逃走を繰り返す。少額の強盗であれば、FBIは興味を示さないという計算だった。そして、定年間際のテキサス・レンジャー、マーカス(ジェフ・ブリッジス)が少しでも現役のままでいたいという熱意で彼らを追う。
脚本は『ボーダーライン』(2015年、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督)のテイラー・シェリダン。『ボーダーライン』よりもシンプルなストーリーだが、アメリカ南西部の人々の昔気質ながらの雰囲気を持っていた。時代設定は現代なのだが、アメリカの開拓時代にタイムスリップしたかのようなレトロ感。多分、テキサスのしかも田舎だと今でもそうした雰囲気があるのだろう。面白いと感じたのは、テキサスでは人々が自警団の意識を持っていること。1966年に起こったテキサスタワー乱射事件を扱ったドキュメンタリー映画『Tower』でも描かれていたが、犯罪が起こると、人々が銃を手に犯人を追い詰めようとする。銀行強盗をした2人を車で追いかけるのは、警官より先に一般人というのはなかなか日本人の感覚では考えにくい。
この映画は、哀愁を帯びたマカロニ・ウェスタンの現代版とでも言える独特の雰囲気を持っている。銀行強盗と彼らを追い詰めるテキサス・レンジャーという設定から想像するアクション物に終わっていない。それに大きく寄与しているのが、テキサスの美しい光景と絶妙のカメラワーク。語り合う兄弟を画面の対角線に配置してまるで芸術写真を見るようなシーンがあったり、前後差のある二人をカメラを固定したままでフォーカスを前後して映し出したり、視覚的にかなり凝っていた。
映画では弟のトビーを中心に描くことで、観客には追われる側の立場で映画を見せている。そして彼の境遇を理解することで、追われる側の焦燥感がより身近に伝わってくる。クリス・パインの演技は『スタートレック』シリーズよりはよほどよい。
なかなか味のある作品で、一言で言えば「シブかっこいい」のだが、万人受けするとは思えない。『明日に向かって撃て』を(オシャレな感じをなくして)、もっとシリアスな感じで暗くすればこんな感じか。予告編からはそうした感じが伝わってこないのが残念。
★★★★★★★ (7/10)