『湯を沸かすほどの熱い愛』 (2016) 中野量太監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

喜劇は悲劇より難しいと言う。果たしてそうだろうか。最大公約数的には確かにそうだろう。しかしあざとさが見えた瞬間に、そしてそれが自分の感性とずれたと感じた瞬間に鼻白んでしまうのはやはり同じだと感じる。つまり、よい悲劇もよい喜劇と同じくらいに得難い。

 

この作品。予告編を観た限りは、いかにも感動させます!という感じで、しかも主演が宮沢りえという、自分にとっては積極的に観てみようとは思えない配役。しかし、年老いた両親を連れて時間つぶしに丁度いいだろうという気軽な感じで観たのがよくなかった。ノーガードにいきなりメガトン・パンチをぶち込まれてしまった。これほど泣きポイントをてんこ盛りにして、そのほとんどを外さないという映画も珍しい。

 

テーマは家族愛。特に、母と娘。しかも彼女たちは血縁以上に濃い関係で結ばれている(と、ネタバレを避けつつ)。彼女たちの「自分が返せる以上のものを受けているからこそ返したい」という精一杯の愛情表現がとにかく泣かせる。

 

ストーリーのディテールは出来過ぎ感もないではない(特にラストシーンは「どひゃー!」)。しかし、このお涙頂戴モノが「お涙頂戴モノ」に終わってないのは、そのマンガちっくなところだと感じる。その鍵がオダジョーのキャラ。女性陣が感動まっしぐらなのに、その脇で本当にダラダラなダメ男を演じている。これがいい。また、「そりゃ、ないかな」という松坂桃李とのSAでの出会いのシーンですら、最後にはきれいにまとまっているところが監督+脚本のうまさを感じる(これは観てご確認を)。

 

であるならば、やはり笑いのツボと同じく感動のツボがあり、『永遠の0』はクソだと思っていたり、『君の名は。』は本当によく出来た映画だとは思うけれど感動のツボは押されなかった自分と同じ感動のツボかどうかは分からないことは覚悟の上でご覧頂きたい。少なくとも、テーマソングがさだまさしやサザン・オールスターズでは「あかんでしょ」というのが自分の感性(ちなみにこの映画の主題歌はきのこ帝国)。

 

ただ、いじめのシーンに関しては、「逃げちゃダメ!」というのが必ずしも正解ではないのではと感じた。ただ「必ずしも」であり、この映画の展開のように正解ということもあるので、映画のよさを削ぐとまでは感じなかった。

 

自分が寄り添える映画は、『そして父になる』や『バケモノの子』といった父と息子のストーリーが多いことからすると、この映画は女性、そして母親、娘との関係に愛憎いずれにせよ強い感情を持っている人には是非観てほしい。そして、私のようにノーガードではなく「感動するよ」と期待満々で「それでも感動した」という経験をしてもらえればいいのではないだろうか。即ち、必見。

 

★★★★★★★★(8/10)

 

『湯を沸かすほどの熱い愛』予告編