FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

奇妙奇天烈、シュール、ブラックユーモアの作品で知られる監督と言えば、『ミッドサマー』 (2019)のアリ・アスターと『女王陛下のお気に入り』 (2018)、『哀れなるものたち』 (2023)のヨルゴス・ランティモスが双璧だろう。この作品はその二人がタッグを組み、アリ・アスターがプロデュースし、ヨルゴス・ランティモスが監督した作品。

 

カリスマ的な脚光を浴びる製薬会社CEOのミシェルが何者かに誘拐される。犯人は、ミシェルが地球を侵略する宇宙人だと固く信じる陰謀論者のテディと彼を慕う従弟のドン。彼らの要求はただ一つ「地球から手を引け」。彼らの馬鹿げた要望を一蹴し、言いくるめようとするミシェル。互いに一歩も引かない駆け引きは二転三転する。やがてテディの隠された過去が明らかになることで、荒唐無稽な誘拐劇は予想外の方向へと転じていく。

 

この作品は、韓国映画『地球を守れ!』(2003)のリメイク。元ネタであるオリジナルを先に観ることができずに本作品を観たが、それはかえってよかったと思った。奇想天外なエンディングがこの作品の面白さであり、(もし『地球を守れ!』を観ていないのであれば)この作品を観るにはネタバレを避けて観ることをお勧めする。なのでこのレビューも極力ネタバレなしを心掛ける。但し、作品中何度もそのエンディングを示唆するヒントが出てくるので、勘の鋭い人はエンディングをある程度予想できるかもしれない。自分は、テディが病院から急いで戻った時にミシェルが家に残っていた時点で確信した(←ネタバレにはならないだろう)。普通、ネタバレ厳禁映画はエンディングの展開が想像できた時点で若干面白さが減じられるのだが、この作品は「やっぱりそうだよね」となっても依然鼻白むことはなかった。

 

テーマはなかなか奥深い。テディが信じる陰謀論は、巨大企業が利潤追求のために環境破壊すらいとわないというもの。彼は養蜂家でもあるが、その環境破壊の表れとして実際に2000年代後半に北米やヨーロッパで報告された「CCD (Colony Collapse Disorder)」というミツバチの働きバチが突然失踪し、女王バチだけが巣に取り残される現象を挙げ、それがミシェルの働く製薬会社の作る農薬の影響であり、それはいずれ人間社会にも影響を及ぼすと信じていた。人間が地球にとって有害な存在であるという指摘は正しいのだが、それはミシェルが経営する会社が引き起こした一事象ではなく、人類の歴史そのものがそうであり、ミシェルの目的はそれを正すことであったという実に皮肉な展開(←少しだけヒント)。

 

『ブゴニア』というタイトルは、古代ギリシャ語で「雄牛から生まれた」を意味し、古代地中海世界において「死んだ雄牛からミツバチが自然発生する」と信じられていた神話を指す。それは「死と再生」の象徴であり、この作品のテーマ(エンディングからその後)に深くつながっている。テディが養蜂家であることもその神話を想起させるものだろう。

 

ヨルゴス・ランティモスらしい作品を一作挙げろと言われたら、間違いなくシュールでブラックなユーモアのセンスにあふれた『ロブスター』(2016)だろう。近年の『女王陛下のお気に入り』や『哀れなるものたち』はビッグバジェットになってスケール感はあるものの、少々毒気が抜けたように感じていた。この作品は原作があるだけに、ランティモスらしいシュールでナンセンスな面白さには若干欠けるものの、これまでのランティモス作品の中では最もまとまりがあって、多くの観客にアピールすると思われる。

 

演技では、ランティモス組のエマ・ストーンの理知的なCEO役の演技はさすが(彼女の動じない態度はさすがカリスマ経営者のそれだと思わせたが、実は理由はそうではなかったという深みのある演技←少しだけヒント)。そしてテディ役のジェシー・プレモンスの狂信的な陰謀論者の演技(これまた逆)も、『シビルウォー アメリカ最後の日』(2024)の赤いサングラスの兵士に並ぶ好演技だった。

 

この作品は本年度アカデミー作品賞にノミネートされている。伯仲する本命『ワン・バトル・アフター・アナザー』『罪人たち』を差し置いて受賞することはよもやないとは思うが、『TAR』『エルヴィス』『トップガン マーヴェリック』を差し置いて『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』が受賞したくらいなので絶対とは言えない。でもやはりないか。それでも『エブ・エブ』よりはいい出来だと思われる。

 

★★★★★★★ (7/10)

 

『ブゴニア』予告編