家族と価値観が合わない遥風は、大学進学を機に実家を出て、都会のベンチャー企業で活躍していた。しかし、目標達成のためには手段を選ばない性格が災いし、パワハラを理由に退職に追い込まれる。そして、自ら事業を立ち上げて見返そうとするが、資金の工面に苦戦する。母の訃報をきっかけに実家に戻った彼女は、実家を売って現金化することを提案するが、出戻りの姉、家業を継いだ長兄、ニートの次兄は反対する。遥風は家族を実家から追い出すため、「家族自立化計画」を始める。
「血は水より濃い」とは言われるが、家族だからこそ難しい関係というのもある。若くして実社会で活躍しているという自負がある遥風にとって、既成概念に囚われた家族は否定してこそ自分を肯定できるという状況だったのだろう。挫折を知らない若者にありがちなものだが、その自己肯定感が推進力にもなるので必ずしも全て否定するものではないだろう。そんなことを考えながら観ていた。とても興味深い家族物語。
他の兄弟3人はそんな妹を疎んじていた。それを遥風も感じていたから父親が死んでも葬式にも出なかったのだろう。その彼女が自分の利益のために講じた「家族自立化計画」。過去にこだわるあまり自立できていなかった兄弟が、それによって自立する結果に。遥風は彼らのためにしたわけではないのに、それが結果的には彼らのためになったというアイロニー。
共感する部分もあれば全く共感できない部分もあり、とても面白く観させてもらったが、大きな難はエンディングのモノローグ。たたんだ店の常連だった客が立ち寄った店から去る後ろを追いかけ、遥風は声を掛けようとするが何と言っていいか分からず立ちつくす。彼女のこれからの人生における迷いを象徴するシーン、自分が見失っていたものがそこにあったのかもという気付きと彼女の強さはこれからの困難を乗り越えるであろう期待に満ちたものだが、モノローグは説明過多で興を削ぐおそれがあった(少なくとも自分はそう感じた)。
監督の次作以降に期待させる出来だった。
★★★★★★ (6/10)