テリィの気持ち、キャンディの気持ち 【13】 (告白) | 水色のリボン

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***** 小説キャンディキャンディ FINAL STORY (長い物語のかけら 20) *****
 
 
テリィ・キャンディ編の13回目。  
  
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昼食会は穏やかなまま無事に終わり、お開きとなった。
キャンディとアニーはテラスでおしゃべりを続ける事にした。
テリィはアルバートとアーチーに話したいことがあるといい、アルバートが書斎へと案内した。
イライザはテリィがひとりになるチャンスが来るはずと、書斎近くに潜む事にした。
 
書斎でテリィは渡英の予定をふたりに話した。それには驚きが勿論あり、特にアーチーはそうだった。
今の彼は仕事はしていたがまだまだ修行中だった。
なので、テリィが『人気と実力を兼ね備えたスター俳優の座』を捨てて新たな舞台を目指し、しかも、いちからまた始めることが到底考えられないことで、やっぱりなんてやつなんだ!と思った。
やりたいことのために名前を捨て、今のキャリアを捨てることも出来る。
テリィという男は自分の物差しでは計れない男なんだとようやく彼は理解した。
アルバートは「これでイギリスへ行く楽しみができた」とにこやかに言った。
 
3人が書斎をでようとした時、テリィは目に入った本が気になり、ひとり残ることにした。
イライザはそれを見逃さなかった。
アルバートとアーチーが出ても、テリィが出てこなかったのを確認し、これはチャンスと高ぶる気持ちで書斎のドアを開けた。
 
「テリィ!」イライザはできるだけ上品そうに呼びかけた。
名前を呼ばれてテリィはその声の主を見た。見覚えがあるとは思ったが、名前は記憶してなかった。
ただ、「女狐」というイメージだけがあった。
関わりたくはなかったが、「えーと君は?」と一応尋ねた。
「イライザよ!覚えていないの?」イライザは怒った様に甲高い声を張り上げた。
「…何か用?」そっけなくそういった。
 
「あなたならどんな由緒ある家柄の娘でも選べるのに、相変わらずキャンディに騙されているのね」
うんざりしたようにテリィはイライザを見た。
「テリィはキャンディの本性をまだ知らないのね。キャンディはね、なんとあの大おじさまと同棲していたのよ。兄だと偽ってまで一緒に暮らしていたのよ。ふしだらな看護婦だからって病院もやめさせられたんだから!今だってあの二人はとっても仲良しで怪しいんだから!」
テリィは無表情だった。
 
「あの子と関わるといいことないわ。キャンディはテリィと出会う前にはね、アンソニーって恋人がいたのよ。彼を散々たぶらかしたの。かわいそうなアンソニーはあの子のせいで馬から落ちて死んだんだから!」
テリィは黙ったままだった。
 
「本当にあの子はすごい男たらしなのよ。私の兄のニールまで誘惑したのよ。婚約まで行き着いておきながら、婚約式当日にその場で『婚約しません』って宣言したのよ!一族勢揃いの前でよ!あの子のひどい仕打ちのせいで兄にはいまだに恋人もできないわ!あの子の呪いっていわれているわ!本当にあの子は男の人にだらしがないんだから!」
テリィは一瞬、反応した。しかしそれはイライザには気付かれることはなかった。
 
「毎度ご忠告ありがとう。ついでにおれのこともあの子に忠告してくれ。テリュースは婚約をして同居をしても結婚しなかった奴だって。こんなひどい男とは関わらないほうがいいってね」
イライザはテリィを怒りの目で見た。
「君ほど全く変わらない人はいないな。今すぐそこの鏡を見たらいい。悪口をいう人間の典型的な醜い顔が見られるから」
そういってテリィは書斎を出た。 
 
そんなテリィだったが、今聞いた「婚約式」には衝撃があった。
キャンディが婚約式?相手はイライザの兄のニールだって?ニールって…あいつだろ?そんなの嘘だろ?!
それは初耳だった。キャンディもアルバートさんも誰も何も言わなかった。
テリィはイライザがでっち上げたのだと思うことにした。
しかし、確かめないと気が済まなかった。
 
みんなはテラスで歓談していた。
「キャンディ、ちょっと」テリィはキャンディを呼んだ。
「どうしたの?何かあったの?」テリィの表情から何かを感じたキャンディは不安げにそう聞いた。
「信じてはないけど、君とニールの婚約式って、そんなのないよな?」
「…!」
キャンディのその反応から、テリィはそれが事実だったとわかった。
「…本当なのか?」それは力ない声だった。
「それは、あの、もう昔の事で、だって、何もなかったし」
「な…!」と言いかけて、テリィは何とか最後のところで自分を止めた。
「あの、ちゃんと説明するわ。わかるように。本当に何でもないことなの。だから言う必要がなかったの」
「わかるようにすぐ言ってくれ」イライラした口調だった。
ここにいるのは危険と思い、キャンディはテリィを裏の湖へ案内する事にして、その場を離れることにした。
イライザはその様子を見て、ほくそ笑んでいた。
 
 
湖はキラキラとその水面をきらめかせ、その湖面を渡る風は穏やかだった。
そして、苛立つテリィの髪をそっと揺らしていた。
大きな木の下にベンチがあり、そこにテリィを座るようにキャンディは促した。
テリィはその長い足を乱暴に投げ出して腰を下ろした。キャンディはその隣に少し距離を置いて座った。
「少しは落ち着いた…?」キャンディが尋ねた。
「そんなわけない!まだ何も聞いていないだろ!」
テリィの怒りは全く収まった様子はなかった。
キャンディはとにかくざっくりと説明しようと思った。
 
「あのね、まずそれは10年は前の事なの。突然ニールが私と結婚できないなら志願兵になるって言い出したの。それは大おばさまにはとてもショックだったの。ステアが亡くなった後だったから。それで私は命令されて、そうするしかなかったの。でも大おじさまが婚約式の当日に現れて、それを取り消してくれたの。そういうことだったの。わかった?」
言い聞かせるようにキャンディは言った。
「…本当にそれだけなのか?」低い声だった。
「大おじさまにも、アーチーにも聞いてもそういうわよ」更に重ねてそう言った。
「いったい誰がそんなことを…誰もがとっくに忘れてしまった事なのに」キャンディは呟くようにそういった。
「…イライザね」呆れたようにキャンディは言った。
テリィは何もいえなかった。
「どうして自分の兄の昔の恥なことがいえるのかしら」キャンディはイライザが本当に残念な人だと思った。
 
「とにかくもう昔の事で、何でもないことなの」
「…何でもないこと?」テリィの声が新たな怒りの色を持った。
テリィは勢いよく立ち上がった。
「君にとっては何でもないことかもしれないけど、おれにはそうじゃないよ、キャンディ」
上から降りてきたテリィの声は、あまりに低く、ゆっくりしたものだった。
初めて聞くその声に、キャンディにはテリィの怒りのほどが感じられた。
「君にとって婚約はそういうものなのか?」
キャンディは瞬間、息を呑んだ。その言葉の意味が重かったからだ。
「婚約が取り消されたから何でもないって、そうなのか?そんなことがあっても君は平気だったってことなのか!?」
そう言い放ったテリィには、怒りもあったがキャンディには見えていない哀しみもあった。
「…違うわよ」キャンディも立ち上がった。
「私はアードレー家の人にとってはチェスの駒なんだと思ったわ。人間として見てくれてないんだって。命令ひとつでしたくもない結婚も決められてしまう、そんなものなんだって!!」
ふたりは視線をはずさないで向き合っていた。
「どうして平気だったって思うの?あなたが婚約した時だって、私…!!」
そう言ったキャンディは、はっとして口をつぐんで目をそらした。
「だからおれもショックだったよ。たとえ昔だとしても。何もなく終わった事だとしても」
その声はようやく落ち着きが戻ったことを感じさせるものだった。しかし寂しげでもあった。
「…」
「君に何もなくてよかったよ」
そういって遠くに視線をはずし、テリィは息をついた。
  
湖の岸に寄せる水の音だけがかすかにしていた。
静かな時間が流れている中、ふたりはただ黙ってその場に立ち尽くしていた。
  
キャンディはテリィが過去の婚約を気にしていることは充分にわかっていた。
それが本意ではなかったことも、そして辛かっただろうことも。
彼は自由になり、結婚が前提の婚約を私とした―。
それがテリィにとってどんなに意味があることなのか、キャンディは初めてわかった気がした。
  
「悪かった…」テリィが呟くように言った。 
「おれってやな奴だな。おれは結婚を前提にしていなかったとはいえ、婚約をして長く同居もしていたのに、君の婚約式って聞いただけでこんなに取り乱してしまった…」
「…」
「おれの婚約を知ったとき、君を傷つけたはずなのに…」
「…」
「本当に自分勝手な奴だな。おれは」
そういってテリィは大きく息をつき、キャンディをそっと見た。
「君を責めたいんじゃない。そんなことがあったことが悔しいんだ…」
ぽつりとそう言った。 
 
何をどういったらいいのかキャンディはわからなかった。
彼にいいたい言葉が何も見つからなかった。
ただ、目の前にいるテリィを見つめる事しかできなかった。
  
 
「おれのせいだな」
「…」
「おれと別れたから、そんな事が君におきてしまったんだ」
「それはちがう…!」
「キャンディ、このことに関しては全部話してくれ。あんな奴でもいきなり結婚をいいだすわけはないだろう?他にも何かあるんじゃないのか?」
キャンディはテリィの頭のよさを感じずにはいられなかった。
こんな彼を自分がごまかす事は到底不可能と判断し、話すことにした。
 
「何度もデートに誘われたわ…勿論断ったけど」
「…他には?」
あのことを言っていいのかどうかと一瞬キャンディは迷った。が、この迷いも目の前のテリィにはすぐばれてしまうと思い、即座にあれは無かった事にしようと決めた。
「それは思い出したくないようなことなのか?!」テリィのその言葉にとっさに反応してしまった。
「違うわ!あなたの名前を使って呼び出されて…」思わずそれを口にした。
「え?!」テリィが瞬時に固まった。
「…それであっさりだまされてラガン家の別荘に連れていかれて、そこにはニールがいた…」
「なんだって…!!」それは初めて見る動揺したテリィだった。
「でも、私はあんなの全然へっちゃらでやっつけたの!逃げだしたらそこへ丁度アルバートさんが私を探しにきてくれていて、助かったの!だから何もなかったの!」
「なんだよそれ!だから今日ニールはきてなかったのか!!おれに合わす顔がないからか!?」
よく響くテリィの声が、ひときわ響き渡っていた。
「あの、アルバートさんに聞けばわかるから、何もなかったこと」
「本当に何もなかったのか?」テリィはキャンディをじっと見た。
「本当に」
「…」
「何かあったなら、私はあなたに会うことなんてできなかったと思う」
「…」
「何もなかったことは、あの、いずれあなたがわかると思うの…」とても小さな声でそう言うとキャンディは赤面した。
ずっとキャンディを見つめていたテリィは、その言葉の意味がわかってやっと表情を緩めた。
「キャンディ…」テリィはキャンディをしっかり抱きしめた。 
「もう君をほっておけない。NYへきてくれ。おれのそばにいろ」
「…はい」
「そばにいないと守れない…」
そういったテリィは、もう二度とキャンディと離れて暮らすことはできないだろうと思った。
 
 
しばらくして、キャンディは思い出したように「もうひとつ話しておくことがあるの」と言った。 
するとテリィはからだを離し、「まだあるのか?」とキャンディを見て聞いた。
キャンディは神妙な顔つきでうなづいた。
テリィは今度はどんなことかとまた落ち着かなくなったが覚悟を決めた。 
キャンディはテリィの耳元でそっとこう言った。
「私はずっとテリィが好きでした」
驚いた顔でテリィはキャンディを見た。
「ずっと、言いたかった…」そういってキャンディは顔を真っ赤にした。
テリィはことさら優しく微笑んで、キャンディをまた包んだ。
  
様子を伺っていたイライザは、(せっかく上手くいっていたのに、どうしてこうなるの!)と更にイラつくのだった。
  
 
後は、、次にします。