前回のあらすじ↓








ーーーー




祝宴は皮肉なほど完璧に進んでいった。
最高級のシャンパンで乾杯し、運ばれてくる一皿一皿に健二の両親は感嘆の声を漏らした。
部長は健二の仕事振りを語り、それを隣で聞く美咲は時折健二と視線を交わしながら甲斐甲斐しく料理を取り分けていた。

健二は完全に勝利を確信していた。
仕事、両親、上司、そして妻と愛人。すべてを手中に収め手懐けているという全能感。彼はワインを口に含み、隣に座る美咲にテーブルの下でしか分からないような微かなサインを送っていた。

「……そろそろ、お食事も終盤ですね」

私は立ち上がった。

「今日は皆様お集まりいただき本当にありがとうございます。10年という節目にどうしても皆様にお見せしたいものがあります。私たちが歩んできた道のりと、私たちが知らなかった『真実』の記録です」

私は支配人に静かに目配せをした。

「皆様の前に小さなアルバムをご用意いたしました。これは私からの皆様へのささやかな贈り物です。どうぞ開けてみてください」

白い手袋をはめたスタッフが、一人一人の前にあの金文字のアルバムを置く。

皆が期待に満ちた手つきで最初のページをめくる。そこには健二と美咲がラブホテルを出入りする鮮明な写真、美咲の裏アカウントのSNSに投稿された健二であろう男との不貞行為を連想させる画像の数々。
健二と美咲の顔から血の気が一気に引いていくのが分かった。

一瞬の静寂の後、レストランは修羅場と化した。

「何だ……これは! 健二、どういうことだ!」

義父母の怒号、上司の冷ややかな視線、そして顔面蒼白になり足元から崩れ落ちる二人。

私はその光景をデザートのシャーベットをゆっくりと口に運びながら眺めていた。


その後、健二のキャリアは終わり美咲は懲戒解雇の危機に瀕した。何より二人はお互いを責め合い醜くののしり合うようになった。


愛など最初からなかったのだ。
ただの利害関係と欲望の結合に過ぎなかった彼らの関係は、私が差し出した一つのアルバムによって容易く崩れ去った。


私はその後荷物をまとめて家を出た。
彼らのその後は知らない。ただあのレストランで見た絶望に歪んだ彼らの顔だけが、最高のデザートとして今でも記憶に残っている。