井上荒野さんの小説が好きです。
もっというと井上荒野さんが描く「食の描写」に憧れます。
井上さんにとって「食は文体」だそう。
細かな味や香り、食感が描かれているわけではなく、淡々と食べものが並べられていることを綴っているだけのに登場人物の心情が手に取るようにわかる。
本作は食そのものではなく、料理の道具を通じて男女の機微を描いた良作です。
鍋に残しておいたおでんの出汁を知らぬ間に捨ててしまっていた夫、余計なことを考えないようアクリルたわしを無心に編む女性。些細な日常の中に男女のすれ違いやボタンの掛け違えがあって、井上さんってすごいなと思うです。
ちょうど井上さんがご主人と暮らされる八ヶ岳の家の台所をテレビで見る機会があって、道具って人柄が出るなあと思いました。