世界でいちばん古い旅館 | 「週刊・東京流行通訊」公式ブログ

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南アルプスの甲斐駒ケ岳に、「世界で一番古いホテル・旅館」の新しいギネス世界記録が誕生した。入口にも窓枠にも風雨にさらされた歳月の跡が見られる甲州西山温泉慶雲館は、1300年という悠久の年月を経てきた。慶雲年間に温泉が発見されたことから、慶雲館という名前が付けられた。天文年間には、甲斐の武田信玄がここに遊び、天正年間には武田家の家臣、穴山梅雪もここを訪れている。できることなら魔法を使って1300年前に戻り、当時の様子を見てみたいものだ。きっとそこは、俗世間とは関わりのない、静寂に満ちたすばらしい世界だっただろう。


甲州西山温泉慶雲館は山梨県南巨摩郡早川町にあり、最も近い駅はJR身延駅である。深山幽谷にあると言っても過言ではなく、身延駅からさらに車に乗って1時間半も揺られていかなければならない。行程がたいへんなのにも関わらず、2010年のJTBのお客様アンケート評価によれば、慶雲館は平均95点を獲得し、中規模旅館ではトップだった。都市で見られるような華麗な建築もネオンサインもなく、ここは日の出とともに起きて、日没とともに休む、桃源郷のような静かで素朴な場所である。


日本では自家源泉を持つ温泉旅館は少ないが、慶雲館は自家温泉を6本も持ち、毎分2030リットルの温泉が湧きだしている。中国の三峡ダムが毎秒10000立方メートルの水を放出していることを考えると、慶雲館の三日半の温泉の水量が三峡ダムの一秒の放出量に相当することになる。その勢いを思えば、戦国時代の武将たちがこの温泉を愛したことにも納得できる。泉質はナトリウム、カルシウム、硫酸塩塩化物泉で、鉱物が豊富に含まれ、胃腸病、神経痛、糖尿病などに効果がある。館内には全部で8つの風呂があり、そのうち3つは1300年前の自然湧出泉と2005年の掘削自噴泉を混合した温泉で、残りの5つは掘削自噴泉を使っている。温泉にはそれぞれ個性があるので、自分に合った温泉を選んでほしい。


第52代当主、深澤雄二さんは、「慶雲館は純和風の旅館として、昔から連綿と続く日本文化を守り続けていきたい」と述べている。すばらしい旅館には、すばらしい当主が必ずいるものだ。「智者は水を楽しみ、仁者は山を楽しむ」と言う。山と水にはそれぞれ優れたところがあり、ある人は山を楽しみ、ある人は水を楽しむ。深澤さんは、水を楽しみ、かつ山を楽しむ人である。現代の都会人が慶雲館にあこがれる理由は、そこにあるのかもしれない。

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西山温泉慶雲館 http://www.keiunkan.co.jp/