僕は任期満了の数ヶ月前から、別れの挨拶で何を言おうか考えていた。

タイの学校に赴任した当初、新任教員として全校に紹介され、挨拶をしてから2年、最後にどんなメッセージを残すべきか。

就任時の挨拶で僕はタイ語で自己紹介をしたが、発音が悪く、まったく伝わらなかった。

そして結局、英語で喋り直したという苦い思い出がある。

僕の在籍中にタイでの任期を終え、去っていった外国人教師が6人いたが、彼らを見て、去り際こそ大事にしたいと思った。

挨拶は朝礼のなかで行うが、生徒たちも強い日差しのなかで座っているので、長く話しても伝わらない。

簡潔に、いちばん伝えたいことだけを伝えて、格好よくお別れをしたいと思った。

あるアメリカ人教師は、“Come to America.” と言って去っていった。

ストレートで良いメッセージだと僕は思ったが、タイ人生徒の反応は薄かった。

生徒たちは、外国人教師がタイ語で挨拶したときにかぎって、拍手喝采で喜んだ。

だから僕も、タイ語で話そうと決めていた。

さんざん悩んだあげく、僕はタイ語の歌を歌うことにした。

選んだ曲は、ไม่เคย(マイクーイ)→動画はこちら

とても短い曲だが、動画の再生回数を見るだけでも、この曲がいかに人気かお分かりいただけると思う。

タイ人でこの曲を知らない人はまずいない。

最高の時間が過ぎ去ったあとの、もの哀しさ、切なさを歌った歌だが、素晴らしい出会いに対する感謝も含まれている。

僕は、タイで日本語教師の経験を積むことができて本当によかったと思うし、縁がなければ絶対に行くことのなかった、イサン地方の小さな町の、あの学校で働くことができたことを幸運に思っていた。

歌い終えてから、日本語で「ありがとう。さようなら」と言ってステージから降りた。

生徒たちは大いに喜んで拍手を送ってくれたし、先生たちからも、「良かった、良かった」とほめられた。

我ながら最高の挨拶ができたと思った。

{D43CE1BD-92D6-4F6A-93AB-55D73742C2A0}
※画像を一部加工しています。


さらに嬉しかったのは、生徒が応えたアンケートのなかに、下のようなものがあったことだった。

このアンケートは、外国人教師の満足度を調査するもので、毎年実施されている。
{00EE6497-11FC-4130-93CA-64C911F6E2B4}
あえて英語に訳すと、
I love sensei.
I don't want to let him go.
He taught very well.
と書いてある。

こんなことを書いてくれたのは一人だけだが、大抵みんないいことを書いてくれていたし、悪口を書く生徒は一人もいなかった。

みんな素直で優しい子ばかりなのだ。