僕が赴任していたタイ東北部の学校にときどき来る日本人がいた。

彼は、20年にわたってタイ東北部の中高生を支援している人だった。

ある地方新聞社の幹部であるI氏は、70を過ぎた高齢ながら、毎年3〜4回タイ東北部にある複数の学校を訪問する。

なぜタイ東北部だったのかは僕にはわからない。

支援者の多くはI氏の新聞の購読者であり、年間5000〜1万円程度の寄付をしているようだった。

支援を受け取る条件として、生徒は毎日英語で日記を書くことと、I氏の訪問時に行う英語のテストで合格点を取ることが求められる。

I氏は毎年、各学期の始めと年末に学校を訪問し、支援を受けたい生徒を集め、英語テストを行ったり、英文日記のチェックをしたりする。

年末のI氏訪問時に努力が認められた生徒は、I氏から1万円相当額の支援を受けることができる。

その際、該当生徒はプロフィールを作成し、提出しなければならない。

顔写真、家族構成、住所、電話番号、誕生日、身長、体重、スリーサイズに至るまでの個人情報が、日本にいる支援者に渡されることになる。

学校にI氏が来る時、僕はいつも手助けを求められ、生徒を集めたり、通訳したりしたが、そのプロフィール作成だけは、ちょっと気持ち悪いと感じた。

タイ人生徒は単純なお金欲しさに、英文日記を書き、言われるままにプロフィールを記入するが、どこの誰だか分からない支援者に個人情報が渡されるというのは、どう考えても気味が悪い。

僕がいたときにも、生徒はプロフィールを書かされ、ある女子生徒はスリーサイズを記入しなかったが、I氏にメジャーを渡され、測れと言われた。

僕は、困った顔をしている生徒に「いい加減な数字を書けばいい」とアドバイスした。

ところで、1万円という支援額だが、現在のタイにおいては、それほど高額ではない。

5万円あれば田舎で1ヶ月暮らすのに困らないことを考えると、1万円は今のタイで3万円程度の価値がある。

英文日記を書くことは生徒にとって決して損ではないはずだが、日本人に個人情報を渡される代償を払って3万円相当の報酬をもらっていると考えることもできる。

支援者が善良な人間であることを願うばかりだが、タイ人の個人情報の安売りは少々懸念される。