タイ人は、いつも「パイナイ(どこ行くの)?」と聞く。
いつでも、どこでも、誰にでも聞く。
タイに来たばかりの外国人(欧米人や日本人)は、見ず知らずの人に「パイナイ?」と聞かれて返答に戸惑う。
家を出て買い物に行こうとすると、近所の人が「パイナイ?」と聞いてくる。
通りや店先でも、いろいろな人が「パイナイ?」と聞く。
こちらが自転車に乗っていても、タイ人のオッチャン、オバチャンは容赦なく聞いてくる。
タイ暮らしの浅い外国人はとっさに返答できず、「え〜と」と考えているうちに声の届かないところまで来てしまう。
では、「パイナイ?」に対してどう答えるのが正解なのか。
例えば市場へ買い物に行くなら、「パイタラーッ(市場へ行く)」と言えばいい。
もし、行くのが市場じゃなくても構わない。
同じように「パイタラーッ」と言っておけばいい。
仕事に行くなら、「パイタムガーン(仕事に行く)」と言えばいいし、「パイトゥラ(用事に行く)」と言ってもいい。
要するに、適当な返事をすればいいのだ。
「え〜と、郵便局って何て言うんだっけ」なんて考えている間に遠ざかってしまって答えるタイミングを逃すより、用事だとか適当に答える方がずっといい。
それに、そもそも「パイナイ?」と聞いた方も、あなたがどこへ行くかを本気で知りたいわけではない。
「パイナイ?」というのは、挨拶みたいなものだ。
一昔前の日本でも言っていたはずではないか。
「どちらまで?」
「ちょっとそこまで」
というアレだ。
それから、用事を済ませて帰ってきた人には、「パイナイマー(どこへ行ってきたの)?」と聞く。
こちらが手に買い物袋を提げていて、買い物をしてきたことが一目瞭然であっても、やはり「パイナイマー?」と聞いてくる。
タイをはじめ、東南アジアの国々には、古き良き時代の日本に似た慣習や文化がまだ残っている。
「パイナイ?」という何気ない挨拶も、都市化が進み、暮らしが便利になるにつれ、なくなっていくのかもしれない。
タイや昔の日本のように、近所の住人や町の人と何気ない挨拶を交わすことができる社会では、犯罪も起きにくいし、ちょっとした異変にも気付くことができる。
タイに住んでいて、不便でも心地よいと感じるのは、誰にでも「パイナイ?」と聞ける空気があるからではないかと思う。
これから東南アジアへ旅行する人は、是非、そんな空気を感じてきてほしい。