私の人気は止まる所を知らず、日に日にお客さんは増えて行きました。ちょうどライブチャットの存在が広がり始めた頃でもあって、一見のお客さんも毎日毎日押し寄せました。


私は急にお客さんの増えた理由が分かりませんでした。でも、皆口を揃えて言っていたんです。「写真に惹かれて来ちゃいました」・・・って。私は決してHな写真を載せてたわけでも、誰かの顔写真を載せてたわけでもありません。ただ、自分の身の周りの物を撮影して、毎日日替わりに違う写真を載せていただけです。


特に反響が大きかったのは、アクセサリー系とお人形系。それに洋服の写真もなかなか人気がありました。私はそれに気付いてから、写真を撮るためだけにアクセサリーや洋服、置物などを毎日ネットショップで買い、その写真をチャットに載せました。


「写真は綾香ちゃんが撮ったの?かわいいね」

「いっつも綺麗な写真載せてるよね」

「女の子らしくていいね」

「顔写真載せてる子より興味惹かれるよ」


写真にこだわり始めると、私の一日のお給料は平均して5万円ほどにまで上がりました。それだけの収入が毎日毎日続いたので、私はもう、すっかり金の亡者になっていました。お金の為に頑張る自分が、余計な事を考えずに自分の力を信じられる・・・。


何の取り得も無い私だから、この境遇がとても心地良くて。




いつしか私は、とても高飛車な女になっていました。


「私ほど稼いでる女はいない、女優並に稼いでる」

「そこら辺のサラリーマンより稼いでる」

「私は普通の女とは違う、才女」

「チヤホヤしてくる馬鹿な男たちの相手は退屈」

「男なんて惨め。私に媚売って口説こうとしてくる」

「私が認めるのは一流の男だけ」


当時、本当にそう思ってました。お金の魔力に魅せられて、判断基準は常に「お金」になっていました。おいしい物も、良い物も、人に好かれる物も、人の欲しがる物も、そして人間も・・・値の張るものであれば何でも高級で良い物だと思っていました。


そして、私の勘違いは更にエスカレートしました。



誰よりも高飛車な私は、確かにたくさんのお給料を稼いでいました。銀行の口座には気付けば1000万円以上も貯まっていて、セレブな気分でした。「自分は他とは違う存在」と思い込んだ私は、自分の評判をもっと知りたくなり、「自分に恋してる男がどれだけいるのか確かめたい」という願望に囚われる様になりました。


私はチャットレディーの話題を匿名で語る掲示板を作りました。 2ちゃんねるのようなスレッド形式の掲示板で、皆が自由に書き込めるようなシステムだったので、私は自分の話題が出るのを楽しみにしていました。

Mさんの告白を受け、初体験を済ませてから、私には妙な自信が湧いていました。

「世の中には私の事を愛してくれる人も存在する」と。

「私は自分で思ってるほどブスじゃないのかも知れない」と。

まだまだ人並みの夢を掴めるような気がしたんです。


Mさんとはあれきり疎遠になってしまったけれど、彼に貰ったダイヤのネックレスやフェンディの時計が、「私に惚れた男がくれた物」という妙な意味を孕んでいて、私に無謀な自信を持たせてました。



チャットレディーの仕事中、私は今まで絶対に自分の写真は出さなかったのに、フェンディの腕時計をつけた自分の手の写真や、ネックレスの輝く首もとの写真を、日替わりで掲載するようになりました。

「あの綾香が写真出した!」って事で、大勢のお客さんが押し寄せて、私のお給料は3割増ほどに膨れ上がり、私はますます自分に自信を持つようになりました。恋なんかしない・・・T君の時の様にそう塞ぎ込むかと思ったけど、意外と私は積極的になっていて、「いつかイケメンと・・・」なんて野望を持つようになりました。


私の中途半端な自信は、「綾香」を余計に色っぽく、魅力的に演出したようで、チャットでは常にNo.1の人気を保っていました。その時の私にとって、それはただ嬉しいだけの結果でしたが、後に自分の首を絞める事に繋がる、残酷な宿命でした。

ベッドのある寝室へ、Mさんに手を引かれながら移動しました。

寝室には大きなダブルベッドが二つあって、そのうちの一つに腰を下ろすよう促されて、私はMさんと密着する形で座りました。


寝室に来てからMさんのキスは、ますます荒くなって、手で私の服を脱がし、身体を触ってきました。


それまでは「気持ち悪い」って思ってたのに、身体を触られてから、「顔なんか気にしなきゃいい」とか思ってしまって、私は身体を触らせていました。私は元々ひとりで自慰とかしてたので、そういう「ひとりHモード」に入ってたんだと思います。


「今日、しちゃって・・・いいの?」

「うん」

「ちゃんとコンドームするからね」

「うん」

「初めて・・・?」

「うん」

「俺も初めてだから・・・痛かったら言ってね」


Mさんのモノがアソコに当たるまで、私はMさんの愛撫に気持ちよくなってたけど、いよいよHを目前にするとまた怖くなってしまって・・・。それでも、やっと処女喪失できるという嬉しい気持ちもあったから、少し痛かったけど、Mさんを受け入れてしまいました。


初体験の後、なんだか生まれ変わったような気持ちになりました。一人前の女になったような、人並みの体験を味わえた事に満足してました。Mさんは私の顔にたくさんキスをして、優しく頭を撫でてくれました。



Mさんの腕枕に抱かれながら、私はMさんに背を向けて最低な事を考えてました。

「Mさんじゃなくて、これがT君だったら良かったのに」

「私は物で釣られてHしたの?」

色々考えてたら悲しくなって、自分の心の醜さが嫌になって、涙が出ました。



「どうしたの?泣いてるの?」

Mさんが心配して声を掛けてくれたけど、私は言ってしまいました。


「私・・・まだT君の事が忘れられない。

Hの相手も、MさんじゃなくてT君だったら良かったのにって、

最低な事を考えてた・・・」

「そっか・・・ごめんね、綾香さんの気持ちも聞かずにしちゃって・・・」

「悪いのは私だから・・・」

「俺じゃダメなのかな・・・?」

「ごめん・・・やっぱりT君の事を思い出しちゃうから、

今はまだMさんとは付き合えない・・・」


Mさんはベッドを出て服を着て、私に言いました。


「俺、これ以上一緒にいると辛いから帰る・・・

綾香さんも辛そうだし・・・俺じゃだめなんだよね・・・

俺は本気だったから、綾香さんの幸せを最優先に考えたい。

俺がいたら綾香さんは幸せになれないから、さよなら・・・」


私が何も言わずに黙っていると、Mさんはホテルを出て帰ってしまいました。