Romantique No.547
『Pop français pour l'automne』
salut 今回もまた、秋に聴きたい音楽のこと(秋の音楽の記事をこんなに引っ張るのは初めて。秋が近づいてきたと思ったら、また夏に逆戻りしたり季節が迷走しているからかな)。間もなく。気温も下がり、ようやく秋らしくなってくるらしい。それならという訳で、もう躊躇なく、秋に聴きたい音楽をセレクトできる。
🎨まず最初に。ベン・ルイス・ジャイルス【Ben Lewis Giles】の、とても秋らしいアートを置いておこう。
そういうことで。今回の記事タイトルはちょっとカッコよく付けてみた。フランス語で『Pop français pour l'automne』。「秋のためのフレンチ・ポップ」、そんな感じの。
少し前の記事『Whisper & Fairy Songs Ⅱ』の中で僕はこんなことを書いている。
フランスのインディー系バンド、Holdenの曲をセレクトしたところで。「ほんとはフレンチ・ポップはウィスパーやロリータ・ボイス系のシンガーの宝庫なんだけど」という風に。
そう。フレンチ・ポップは(女の子たちの歌限定の話だけど)60年代に大流行した「イエイエ」【yéyé】の時代からロリータ系のものが多かったし(基本、アイドル・ポップスだからね)、ウィスパーな歌声もフランソワーズ・アルディから始まり(この人はイエイエのシンガーとしてデビューしたけど他のアイドルとは佇まいが違っていてた)、ジェーン・バーキンがまるで吐息のようなウィスパー・ボイスを世界に広めた(のかな?)。まぁ、今回は「秋に聴きたい音楽」ということなので『Whisper & Fairy Songs』に限定せず、男性の歌も混ぜてみた。
秋の夜長に、とっておきのキュイジーヌを振る舞うように。時に軽やかで、時にアンニュイだったりメランコリックだったりするフレンチ・ポップをスタイリッシュにお届けしよう。
さぁ、フレンチポップをセレクトしていこう。ルイ・マルの『死刑台のエレベーター』やフランソワ・トリュフォーの『突然炎のごとく』などの映画に主演した、フランスを代表する大女優ジャンヌ・モロー【Jeanne Moreau】の、1970年にリリースされた秋のアルバム『Jeanne Chante Jeanne』から『Juste un Fil de Soie』。
若い頃から「ボヘミアン精神」を持ち、まるで「トルバドゥール(吟遊詩人)」のように音楽と共に世界を放浪してきた男、ピエール・バルー【Pierre Barouh】(1934~2016)。その活動は一見、アヴァンギャルドでアンダーグラウンドに固執していたかのように見えかも知れないけど、彼の音楽は実際はそうではなく、生涯に渡って「音楽とは自由な精神のことである」というようなことを真摯に伝え続けてくれた気がするんだ。
バルー自身がメガホンを取った長編映画のための音楽であり、1971年に自らのレーベル「SARAVAH」で制作し、リリースされた僕の大好きなアルバム『サ・ヴァ、サ・ヴィアン』【Ça Va , Ça Vient】から。緩やかなワルツに乗ってバルー自身の考え方や生き方そのものを語っていくようなタイトル曲を映画のヴァージョンで。因みに「ÇA VA, ÇA VIENT」とは「行ったり、来たり」という意味。バルーの言葉が川の流れの如く、ゆっくりと、揺蕩うように緩やかに。そして豊かに綴られていく曲であり、ヨーロッパ各地を自由に転々と移動しながら暮らすボヘミアンの精神性が浮かび上がる。
『ÇA VA, ÇA VIENT』
僕の人生って こんな風に過ぎていく
時には立って 時には座って
僕たちの人生は流れにのって
滞ったり 前進したり
人生は行ったり 来たり
誰も先のことは知らない
君は明日を手の中に握っているの?
人生は行ったり 来たり
君は昨日をどうにかできるのかい?
逆さまに微笑むことができるのかい?
もし冒険が
僕たちのまわりを包む香りに過ぎなくて
その時の気分で選ぶのだとしたら
もし冒険が
僕たちのまわり何でもないものだったら
風のように漂うチャンスに任せておこう
人生は行ったり 来たり
誰も先のことは知らない
君は明日を手の中に握っているの?
人生は行ったり 来たり
君は昨日をどうにかできるのかい?
逆さまに微笑むことができるのかい?
ピエール・バルーが主催したフランスのインディ・レーベル「SARAVAH」からの最初のアーティストになる、ブリジット・フォンテーヌ【Brigitte Fontaine】とジャック・イジュラン【Jaques Higelin】が「SARAVAH」以前の、1966年に制作・リリースしたアルバム『12 Chansons D'avant Le Deluge』から『La Grippe』を。いゃあ、ほんとカッコいいデュエットだと思う。
アラン・ミヨンを中心に結成されたコルテックス【CORTEX】のフレンチ・レア・グルーヴ名盤、1975年リリースのアルバム『Troupean Bleu』からタイトル曲を。この人たちって、ほんとセンスがあって好きだなぁ。
心地いいフレンチ・ブラジレイラが聴ける、覆面女性コーラス・グループ、ル・マスケス【Les Masques】。ブラジルのグループ、ル・トリオ・カマラが参加した、彼女たちの唯一の1969年リリースのアルバム『Brasilian Sound』から『Il Faut Tenir』。
再び日本人によるフランスを。90年代にスピリチュアル・ヴァイブスを率いた竹村延和の、1994年リリースのソロ・アルバム『Childs View』からフランス人ラッパー、Menelikによる『Another Roots』。(僕のごく限られた知識と感受性だけで言わせてもらえるなら)フランス人のラップでこれよりもカッコいい曲を僕は知らない。
ウィリアム・クラインの有名な写真『Smoke and Veil』と『Hat + 5 Roses』(共に「VOGUE」のために撮られた)。モデルは当時のスーパー・モデル、エヴリン・トリップ【Evelyn Tripp】。因みに。もしかすると「Hermes」のバック「バーキン」がジェーン・バーキンから、「ケリー・バック」がグレース・ケリーから付けられたように「エヴリン」も彼女の名前から付けられたのかも。
当時のネオ・アコースティックな音楽の流れで、フィメール・デュオとして1982年にデビューしたドゥ・フィーユ【Deux Filles】の、とてもメランコリックなアルバム『Silence & Wisdom』から『Drinking at a Stream』。フィメール・デュオのその正体は実は、後にキング・オブ・ルクセンブルグを結成するサイモン・フィッシャー・ターナーと、SSWのコリン・ロイド・タッカーの女装デュオであった。
1960年に撮られた作品。モデルは左がNINA、中央がシモーヌ・デーレンクール【Simone D'Aillencourt】。
ダルシマーなどの古楽に使われる楽器が使われ、不思議な世界を醸し出すエマニュエル・パルナン【Emanuelle Parrenin】の1977年のアルバム『Maison Rose』から『Plume Blanche , Plum Noire』。曲もカヴァー・アートもとっても秋っぽい。
最後は。エクトル・ザズー【Hector Zazou】の1991年のアルバム『Les Nouvelles Polyphonies Corses』から、坂本龍一のリリカルなピアノが魅力的な曲『Onda』を。秋の夜長に。この曲を聴きながら深い思索に耽るのもいいかも知れない。
今回、またしても。テーマに沿った音楽をまともにセレクトできなかった。僕が思う『Pop français pour l'automne』って。こんなもんじゃないだろう(知らんがなぁー)。なので、次回もこの続きを(僕の単なる満足感だけの問題だよね)。