僕のブログ記事でいつも、いつも、口が酸っぱくなるほど言ってきましたが。僕は1960年代という時代が大好きなんです(そんなこと、知らんがな)。その大好きなディケイドの中で(とは、言うものの1959年と1960年との違いは特にないので、そこに明確な線引きがあるわけではない)、今回は、60年代前後のデザインやイラストなどについて書いてみたいと思う。その頃のデザインというのは家電製品や家具、車のデザイン、モード、広告、レコードジャケットや音楽自体でさえも、何だか、その時代特有の感触や匂いがあって。とても可愛いし、カッコいいし、常に僕の好奇心を刺激し続けてきた訳だ。古いけれど新しい。単なるヴィンテージでは終わらない。タイミングさえ合えば、いつでもリバイバル使用が可能な(そう、時代は輪廻するのだ)、いろいろなものを紹介していければ、と思います。
さぁ、それでは。いっしょに60年代への『マジカル・グラフィックデザイン・ツアー』に旅立とう。
まずは。イタリアのコミック作家グイド・クレパックスの名作『Valentina』から。エロティックで、60年代の空気感が匂い立つ、スタイリッシュな作品。
■グイド・クレパックスのイラスト
■グイド・クレパックスのタッチを日本人で引き継いだのは、森本美由紀かも。
この時期に大量生産されたB級イタリア映画のサウンドトラック(90年代に渋谷系の流れで注目された)も、60年代の空気が詰め込まれている。代表するのはエンニオ・モリコーネ(この人のスコアはどちらかと言えばオーケストラ・アレンジものやカンツォーネ、何よりもマカロニ・ウェスタンのテーマが有名ですよね)や、アルマンド・トロヴァヨーリ、ピエロ・ウミリアーニ、ピエロ・ピッチオーニなどの流麗で、ボッサでジャージー、シャバダバでウィスルな軽やかな音楽はサウンド・デザインと呼べそうな、スタイリッシュさである。
■アルマンド・トロヴァヨーリの『黄金の七人』のテーマ
■トロヴァヨーリの名曲『セッソ・マット』のテーマ
次は最近、日本版の画集が刊行されたボブ・ピークという人のイラスト群。60年代にしか生まれない、独特のタッチで、数多いイラストを残している。
■ボブ・ピークのイラストはジェームズ・コバーン主演の『電撃フリント アタック作戦』(1967)のポスターだ。
■「あぁ、60年代」とため息が漏れそうな、ボブ・ピークのイラスト
ロバート・ワイズが1961年に撮った『ウェストサイド物語』(1961)という有名なミュージカル映画。そのタイトルバックがとても素敵だ(今回は映画の内容のことは話さない)。映画の冒頭。タテの細い線がいくつも現れてくる。それの線が次第に増えていく。やがて、そのいくつもの線は実写のニューヨークの高層ビル群と重なり合い、空中からのカメラと入れ替わり、そのカメラはニューヨークのダウンタウンの、バスケットコートを捉える、という具合だ。この洗練されたグラフィック・デザインは、アメリカの偉大なるグラフィック・デザイナー、ソール・バスによるもの。
■『ウェストサイド物語』のタイトルバックと同じスタイル、同じイメージの、ソール・バスのデザイン。
フランク・シナトラのアルバム『Tone Poem Of Color』(1956)のアルバム・カヴァー。
次も映画だが、フランスのジャン・リュック・ゴダールが撮った『メイド・インU.S.A』のタイトルバック。真っ黒なバックにタイポグラフィーが弾丸のように撃ち込まれていく。いくつかの文字は赤であったり、ブルーであったり。完全なるグラフィック・デザインだった。ゴダールという映画作家は、映画中の家具や、小物の使い方や色使いにも拘りが強く、結果、とてもスタイリッシュな映像を焼き付ける。例えば『軽蔑』という映画の中に登場する部屋の内装。真白な壁に真っ赤なソファを配置、そこに全裸のブリジット・バルドーが寝そべるという映画的構図。今じゃ、どうってことないレイアウトなのかもしれないが、遥か昔、この映画によって日本の生活感を覆されてしまったコンプレックスは、日本人のトラウマになってしまったんじゃないかな、と思える。
■ゴダールの『メイド・インU.S.A』(1966)のグラフィカルなタイトルバック。こんなにもスタイリッシュなプロローグで始まる映画って、いったい…と、期待させずにはおかない。
■ゴダールの『軽蔑』(1963)に登場する、白い部屋、真っ赤なソファ、裸のブリジット・バルドーの3点セットは60年代スタイリッシュの極み。
それから。ビートルズの、あまりにも有名なアニメーション映画『イエロー・サブマリン』のイラストを描いたハインツ・エーデルマンの作品。60年代ロンドンのフラワーでピースフルな世界。
■同じくビートルズの歴史的アルバム『SGTペパーズ・ロンリー・ハート・クラブ・バンド』のアーティスト、
ピーター・ブレイクの作品。
そして。日本のグラフィックデザイナー、イラストレーターに大きな影響を与えた「プッシュ・ピン・スタジオ」は、1954年にシーモア・クワスト、ミルトン・グレーザーを中心にニューヨークで結成されたグラフィック・デザイン集団。モダンアートやコミックスなどを引用しながらイラストを重視、従来スタイルのタイポグラフィーではない文字を使い、ユーモアにあふれた新しいデザインを常に提示し続けてきた。
■シーモア・クワストの作品
■ミルトン・グレイザーによるディランは彼の代表作。
ピーター・マックスも、60年代のグラフィックを牽引した人。作品のレインボー・イメージは横尾忠則のイメージに繋がっている。
アメリカン・コミックの作家ロバート・クラムの作品は、ビッグ・ブラザー&ザ・ホールディング・カンパニー(ジャニス・ジョップリンが在籍したバンド)の名盤『チープ・スリル』のカヴァー・アートに使われた。
リック・グリフィンは60年代末にサンフランシスコから起こったサイケデリック・ムーヴメントを支えたグラフィック・デザイナー。実にカラフルなサイケデリア。当時のドラッグ浸けのロックの香りが充満している。
■グレイティフル・デッドのアルバム『アオクソモクソア』(1969)にも使われたイラスト。
そして最後に60年代らしい音楽を。
ビートルズもストーンズもビーチ・ボーイズも、もちろん60年代を代表するのだが、彼らの音楽は普遍性を持ってしまっているので外してしまおう。60年代の感触が、イメージが封じ込められたままになった音楽。ゾンビーズの「ふたりのシーズン」と、ビーチ・ボーイズと並びアメリカンロック・ポップスのコーラスワークを完成させたカート・ベッチャーが在籍したミレニウムというグループの音楽。60年代という時代を喚起させてくれる、ある種のサウンド・スケープでもある。
■ゾンビーズの、有名な『ふたりのシーズン』
■ミレニウムの『ビギン』というアルバムからの曲。アルバム全体に60年代の空気が真空パックされている。
今回、さまざまなデザインやイラストを挙げたけれど、もっともっと60年代の空気感や、その独特の魅力を紹介したかったというのが正直なところだ。
では、また。