民営化の危険性 | texas-no-kumagusuのブログ

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トミオ・ペトロスキー(Tomio Petrosky、日本名:山越富夫)のブログです。

民営化すると効率が上がり公のサービスも良くなるから民営化せよ、という議論を良く聞きます。確かに一理ありますが、民営化が民主主義を崩壊させ、人権を犯してしまうこともあることを、アメリカで実際に起こった例を引きながら今回話しましょう。

皆さんも民主主義の重要な砦の一つが法治国家であることはお認めになると思います。そして、法治国家では公務員は民間人と比べて桁違いに情報公開の義務が法的に定められている。だから、民間人のように企業上の秘密という理由で情報開示を拒否できないようになっております。また、民間人では企業同士の接待や便宜の施し合いが認められていますが、公務員ではそれを収賄贈賄の犯罪として法的に禁止されています。ですから、いくら効率が良いからと言って公務員のやるべき仕事を民間人にやらせてしまうと、汚職を犯罪として取り締まれなくなってしまう。

その具体的な例が第2次湾岸戦争で息子ブッシュのときに起こっております。このとき副大統領だったディック・チィエイニーは、父ブッシュの第1次湾岸戦争の時には国務長官でした。国務長官は日本の外務大臣に当ります。第1次湾岸戦争の後、チェイニーは世界最大の石油掘削機の販売会社であるハリバートン社の最高責任者で、且つこの会社の最大の個人株主になりました。そしてその間、彼の政治的手腕を発揮して米国の軍隊の兵站部をどんどん民営化しました。兵站部とは、
兵隊の住居や食料調達や兵隊の輸送などの後方支援をする部隊です。

第2次湾岸戦争ではそのハリバートン社が兵站部を請け負うことになる。そして、兵隊たちに不必要に贅沢とも思える食料が配布されました。もちろんその費用はハリバートン社が政府に請求し、税金から賄われる。余りにも贅沢な食事だったので、国会議員だったか一般国民だったが、その食料の内訳とハリバートン社の金額の取り分の公表を求めました。しかし、ハリバートン社はそれを企業上の秘密として公表を拒否しました。その結果、法的に公表を命令することが出来ませんでした。もちろん、これが公務員による事業だったら法的に開示義務があり、国民はその内訳を簡単に知ることができたのです。

別な例は、現在アメリカの監獄の多くが民間経営になっています。民間に任せることで効率を上げ、各州の予算を減らそうと言うのがその正当化の根拠です。その結果、次のような現象が実際に起こりました。以前、公が監獄を管理していたときは、メキシコからの不法移民は拘束施設に2週間ほど止め置かれ、その後、 裁判所の決定によって国外に強制退去されていました。ところが監獄が民営化された以降、裁判所で1年ほどの監獄送りの判決が頻繁に出るようになりました。

アメリカでは日本と違って裁判官は選挙で選ばれます。だから、アメリカの裁判官は共和党系の裁判官と民主党系の裁判官にはっきり別れています。要するに司法が政治とベッタリ絡んでいて、三権分立が怪しい制度になっています。そして、裁判官の選挙運動には選挙用の献金が合法化されている。そこで、民間の監獄経営会社が、共和党系民主党系によらず、その裁判官候補者に多大な選挙資金を献金し始めたのです。これはアメリカ以外の先進国では明らかな贈賄です。しかし、アメリカではそれが合法化されています。犯罪の軽重に関係なく、囚人が長い間監獄に入っていれば、税金から監獄経営会社へ支払われる金額が増えるのはもちろんです。だから、判決をより重く出してくれる裁判官に対して
監獄経営会社から選挙資金献金がより多く流れるのは道理となります。その結果、メキシコからの不法移民に対する判決が重くなって来たのです。そのことを余りに露骨にやった裁判官を流石に政府も放って置けず、どのような法的根拠を使ったのか知りませんが、その裁判官が逮捕されたとのニュースがありました。

どうですか。確かに民間企業は公の事業より効率が良いのですが、このように何もかも民間に任せてしまうと民主主義が崩壊し人権が侵されてしまうのです。

アメリカ人も悪意があってこのような制度を導入したわけではないのですが、人間の性(さが)を考えると性悪説にも一理ありますね。どうやら日本人だけが世界で例外的に性善説を信じているらしいと言うのが私の印象です。ですから日本人にはお花畑が異様に多いように思えます。