栗山大膳利章には、同じく黒田家に仕える星野宗右衛門という友がいたが、
この宗右衛門、親族の借金を肩代わりして、
博多商人・河内屋に三百両の負債を抱える身となった。
大膳は、友のために借金の弁済を試みたが、誇り高い宗右衛門は、
申し出を受けようとしなかった。
ある日、大膳は宗右衛門の屋敷を訪れた。
客間に通された大膳は、床の間に掛けられた軸に目を止めた。
「なかなか良い物をお持ちではないか。」
「大したものではないが、御意にかなえばお持ち帰りあれ。わしが持っていても意味は無い。」
「…では、遠慮なくいただこう。」
翌日、宗右衛門のもとに大膳から絹の包みが届いた。
包みの中には陶器の花入と、書状が入っていた。
“先日の掛け軸の返礼に、この花入れを進呈いたす。もしお好みに合わねば、
何人なりともお譲りあれ。
お出入りの河内屋など数寄に執心との事、
しかも河内屋は貴殿ご所望の色紙も持ち合せと聞き及ぶ。
色紙と花入を交換するも良し、貴殿のご随意になされたし。”
「はて、俺は色紙など欲しくは…!
色紙とは借用証文の事か。掛け軸を所望したのも、わしを救わんがため、
この花入と交換するために、わざと言った事か。大膳殿、すまぬ…。」
さっそく宗右衛門は、花入を持って河内屋に駆け込んだ。
「この花入、質に入れれば値はいかほどだ?」
花入を鑑定した河内屋は、仰天した。
「そ、宗右衛門様、こ、この花入をいったいどこで?!」
「ある人に譲ってもらった。良い物なら、借金の足しにしたいのだが。」
「これこそ名物花入・銘『旅枕』。
かの利休居士が作らせ、太閤秀吉公みずからの命名になるとか。
太閤からご当地先代・長政公に、長政公から栗山家に下賜された、
門外不出の逸品と聞きますが…。」
「…仔細あって譲り受けた。して、いかほどになる?」
「これなら三百両を帳消しどころか、逆に三百両お支払い致しますぞ!」
「いや、借金を帳消しにするだけで良い。このわしに、富貴に浸る資格はない。」
花入と証文を取り替えた宗右衛門は帰り道、大膳の屋敷の前まで行くと、深々と頭を下げた。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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