島津の中馬大蔵重方が、家に帰ってみると、嫁や娘が泣いていた。
こりゃどうしたことだと尋ねてみると、年の暮れなのに今夜炊く米もないと。
この言葉に中馬大蔵が一言。
「そんな事で泣くやつがあるか。都合してくる。」
と、言って、向った先は、百姓が藩の米蔵に米を納めに行く道。
何と中馬、その道に立ちふさがって、来る百姓に、
「これから後の米は自分が殿様から貰ったから、自分の家に運べ。」
と、言ってのけた。
無論、百姓衆は信じないのだが、
断ったら切り捨てられる雰囲気だったので、言われた通りに。
中馬は、それらの米を、家の倉に入れさせ、縁に積み上げさせ、
屋根裏にまで入れさせた後、焼酎を買って、百姓に充分に振舞った。
さて、収まらないのは藩の役人達。
早速中馬の所に行って、米を返すよう抗議するのだが、
「拙者は戦場においてはいつも一番槍、一番首を欠かさない代わりに、
米は殿様に預けていると思って貧乏に甘んじている。
飯米がなくなったので、今日は預けていた米を返してもらっただけ。」
と、全く悪びれた様子も見せない。
とうとう中馬に切腹をさせようと老臣達が評議した所、
義弘が一言。
「中馬はしょうがない暴れ者だが、戦場では最も重要な所で活躍する剛の者で、
巧妙手柄は数え切れない。
それほどの者を貧乏にしているのは自分の罪だから、自分が謝るので許してほしい。」
と、涙を流して詫び、結局不問になった。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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