島津貴久は、子供の頃、勉強をほったらかして、
鷹狩りに出かけることが、しばしばであった。
父や近習の眼を盗んで遠くまで出かけた時のことである。
突然の大雨に見舞われた彼は、慌てて帰路に着いたが、
川に差し掛かったところで、行きに使った橋が流されていた。
立ち往生していたところ、向こう岸に近習の園田某の姿が見えた。
抜け出した貴久を慌てて追いかけてきたらしい。
貴久と自分の間に流れる川を見ると、事情を察した彼はざんぶと川に身を乗り入れた。
肩まで水につかり水面に見えるのは顔だけという状態である。
「さ、早くお渡りください。」
自分の頭を足場に川を渡れというのである。
貴久は、
「いかに君臣と言えども、そのような真似は出来ぬ。」
とこれを拒むが、
園田も、
「いやいや、一刻も早くお戻りにならねば。」
と引かない。
そうこうしている間にも、水かさはどんどん増していく。
度重なる懇願に貴久はとうとう折れて、
「されば許せよ。」
と彼の頭上を渡って向こう岸へ渡り、二人してずぶ濡れになって帰った。
貴久はこのことを大いに反省し、以後は学問にも身を入れるようになったと言う。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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