紀州の徳川頼宣が、土佐国山内土佐守(忠義)の愛蔵している兼光が、
世に名高い大業物であると云うのを聞き伝えて、ある時、藤堂高虎に対し頼んだ。
「土佐守の兼光を、所望してもらえないだろうか。」
高虎は承知し、早速山内忠義を訪ねて、紀伊大納言所望の件を話した。
すると忠義は、元来非常に気性の激しい人でもあったので、大いに反発した。
「以ての外のことです! あれは我ら秘蔵第一の刀、進上などは思いもよらぬ!」
そのけんもほろろの態度に、高虎も少し腹を立て言い返した。
「左様に仰せられても、もし将軍家より御所望と有れば差し上げぬはずはないではないか。」
ところが忠義、
「例え将軍の命であっても、あの兼光は差し上げ申さぬ! 土佐一国に変えても嫌でござる!」
そう言い切った。
これには高虎も呆れ返って二の句も付けず辞して帰った。
ところが、この話が評判となり、土州公の、
「一国兼光」
と呼ばれ、一層名高いものに成ったという。
忠義が国に変えてもと言っただけはあって、この兼光は無双の上作であるそうだ。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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