大坂冬の陣。
茶臼山に本陣を構えた大御所・家康は、輿に乗って配下を叱咤する老人の姿を眼に止めた。
「あの老武者を見よ!
もはや足が萎え果て、馬にも乗れぬゆえ輿に乗っているのであろうに、
あの姿勢、声の張りは、
ヘタな若武者どもをしのぐわい。いったい何者だ?」
「ああ、あれは助兵衛殿ですな。」
「助兵衛? すけのひょうえ・・・、花房助兵衛か! まだ健在であったか!」
関が原の戦いの後、八千石を給され、備中高松に陣屋を構えた花房家は今回、
池田忠継の寄騎として参加を命じられたが、齢六十も半ばを過ぎんとする助兵衛は、
嫡男に任せず自ら出陣して来たのだ。
「さすが助兵衛。日々武辺を心がけた者は、あの齢で出陣しても見事な武者ぶりよ。
大剛の者と言うべし。」
将としては評価できなかったものの、
老いてなお盛んな助兵衛に感心した家康は、
池上本門寺の僧になっていた助兵衛の次男を還俗させ、
徳川四天王・榊原家の養子として榊原飛騨守職直と名乗らせ、将軍秀忠の直属に置いた。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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