関ヶ原。
『内府様(家康)の軍勢を荒らせし者で、
明石掃部と薩摩の如く、甚だしい者は無かった。
その中でも明石掃部は退却せずして敵中に突入し、
自害するよりも敵の手にかかることを望み、
しだいに敵に追い詰められ、もはや逃れるすべのない事を知ると、
甲斐守(黒田長政)の軍隊に乱入して最後の血戦を試みんとした。
甲斐守は乱入してきたのが、その挙動、及び軍装によって、
掃部であることを知り、声高に下知を伝えた。
「おまえたち、彼を殺してはならない! 私が彼を生け捕りにする!」
この叫びに黒田軍は皆動きを止め、甲斐守は自ら明石の方に進み近づくと、
その頭に手をかけて抱擁し、涙を流して語りかけた。
「我が友よ! 我ら互いに敵となってここに見参することの苦しさよ。
勝ち誇る我軍によって敗れたと言っても、あなたの名誉は隠れ無いものである。」
これに明石、
「あなたが真の友ならば、その刀で今すぐに私を斬ってくれ!」
と答えたが、甲斐守はその言葉に従わず、
それどころか自分の馬を明石に与え、
それに騎らしめて戦場を脱出させ、敵の命を救った。』
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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