これは水野勝成が、福山城主になってからの晩年の話。
諸大名に負けず劣らず狩りが大好きだった勝成は、
御供と懇意にしていた茶坊主を連れて、
いつもの様に鹿狩りに山へ出掛けた。
ちなみにこの頃の勝成は若い時に戦場と放浪で足を酷使し過ぎて歩く事もままならず、
狩りに出るのにも馬を使わずに駕籠で移動していた。
勝成は山へ狩りに入る前に家臣達に、
『すべての勢子が揃うまでは鉄砲は撃つな。』
と、厳重に命じ山に入った。
がしかし、しばらく進むとあれ程厳重に発砲しない様に下知したのにも関わらず…。
ターン!ターン!と遠くから銃を発砲する音が鳴り響いて来ました。
それを聞いた同席していた茶坊主が、
『鹿が逃げる、不届者よ。』
と言い勝成の駕籠を一瞥したが何も反応が無いので、
『さては寝てしまわれたのかな?』
と思い黙っていた。
しばらくするとまた同じ様に数回銃声が聞こえたので堪らず茶坊主が、
『仰せ付けに背き、度々鉄砲を撃つ者がいます。』
と勝成に告げた。
すると駕籠の中から、
『このたわけが、先程からの銃声が聞こえぬ訳は無かろう、
いかに法度に背いたといえ、鹿に侍が替える事ができようか、そなたは無知である。』
と、勝成が茶坊主を叱った。
それを聞いた家臣達は畏縮し、すぐさま無駄に発砲するのを止めたという。
勝成は狩りに戦の演習も兼ねていたので、前線にいれば前線の考えもあり、
鹿が逃げようが逃げまいが自分の配下の者が撃つと判断したならそれなりの理由が、
前線であったのだろうから、
撃つのにイチイチ上司に伺いをたてなくても、
自分で判断して身を守ればいいと考えていた。
と今まで前線で好き勝手にやって来た勝成のお話。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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