陶隆房(後に晴賢)は、いりこ酒(ヒレ酒のにぼしバージョン)が、
山口で大流行したときに、
夜な夜な諸将の主催する酒宴に顔を出してたんだが、
ある日、オールで遊んで朝帰りした。
酔いも覚めやらず、寝所の外で鳥の声を聞いていると、
家の中から近習が話す声が聞こえてきた。
近習たちは隆房の帰宅に気づいていない様子だった。
「殿は、こんな時間まで、どこで何をされているのやら。心配だなあ。」
「なに、殿はいりこ酒だ。いりこ酒の隆房様よ!」
馬鹿にされたと思ってカチンときた隆房は、荒々しく障子を開け放つと、
脇差を抜いて、「いりこ酒」と言った近習に斬りかかり、
反対側の庭まで追い詰めて首を差し出せと迫った。
近習は縁側に上がり、
「殿の悪口を言ったのではなく、ちょっとふざけただけですが、
そこまでお怒りなら、どうぞお好きになさってください。」
と諸肩脱いで首を延べ、
隆房は一も二もなくその首を落としてしまった。
この近習は隆房の乳兄弟で、父親も隆房が赤子のころから養育係として仕えている。
父親を呼んで成り行きを話し、死骸を弔ってやるようにと言うと、
父親は息子の遺体を庭に突き落とした。
曰く、
「こんな不届き者、私の息子じゃありません。天魔か狐の類でしょう。」
この父親、他の人にも悲しみを見せなかったが、夜になるとこらえきれずに涙で枕を濡らした。
それでも、その後も隆房を恨む気配もなく、一途に仕えていたため、
隆房も自分の行いを恥じて、近習を殺したことを悔やんだそうな。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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