前田利常の元に、小堀遠州が御出でになり、四方山の話をしていた時に、
利常がふと、
「古田織部の焼かれた茶入の中でも良い物で、
なおかつ織部自身の茶の湯に出した茶入というものは、あるのでしょうか?」
遠州は答えた。
「ええ、御座います。その茶入は、餓鬼の腹によく似ているからと、
『餓鬼はら』と名付けられた茶入です。
実に、一段見事な茶入です。」
これを聞いてその茶入を手に入れたく思った利常は、遠州の語った内容を書き付け、
京都でこれを尋ねよと高田弥右衛門らに命じた。
高田達が探し尋ねると、その茶入はとある町方のものが所有していることがわかった。
その町人に、譲ってもらうよう頼み、代金のことについて尋ねると、
高田が買取の値段を言い出す前に町人は、
「何と言っても御大名様がお尋ねになった事ですから、金五百枚と申し上げてください。」
と、金五百枚を要求した。
そこで高田弥右衛門もこれを利常に報告した。
そうした所で利常は小堀遠州に京へ言ってもらい、その茶入を確認してもらった所、
「なるほど、間違いなくこの茶入です。」
とお墨付きを得たため、利常は高田に金五百枚を遣わし、町人より茶入を買い取った。
その後、小堀遠州がまた利常の元に参った時、
利常はこの『餓鬼はら』の茶入で茶の湯をされた。
茶の湯が終わると小堀遠州が尋ねた。
「この茶入を買い入れるのに、代金はいかほど必要だったのでしょうか?」
「持ち主が金五百枚と申しましたので、その通りに遣わしました。」
これを聞くと小堀遠州、手を叩いて痛快そうに、
「実にご尤もなことです!
御大名がそのようにしていただいてこそ、織部の焼き物に価値が付くというものです!
織部も泉下にて喜んでいることでしょう!」
そう申し上げ、帰っていったそうである。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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