前田玄以は、人となり智慮深く、色欲無く、多くの物事に通じ、
強いて細事を勤めず、内典外典の学術から歌道に至るまで兼学し、
有識の聞こえが有った。
彼が所司代と成り京中を巡見の時、東寺の辺りで牛車が路に横たわっていた。
玄以は、以ての外に立腹し、
「所司代の通る先に、道を塞ぐこと奇怪なり! それ切って捨てよ!」
と命じた。
しかしこの命を従者たちは誠しからずと思って動かずにいると、玄以は、
「又、主人の下知を背く曲事なり!」
と散々に怒ったため、従者たちも是非無く牛を切り殺した。
これを見聞きした者達は、
「此の度の所司代は乱心している。
牛を切るほどなのだから、
人に気に違う事が有れば、一言も言わせず切るだろう。
一体どんな目に遭わされるのか。」
と甚だ恐れた。
このために、玄以は所司代に在任している最中、
牛を一匹切っただけで、公事(訴訟)という事も少なく、人を殺したこともなかった。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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