日根野法印(弘就)が、弟の弥二右衛門と、同じ陣屋にて寝ていた所、
外で騒がしい物音がした。
弥二右衛門は、すぐに起き上がり甲冑に身を固めた。
この時、寝ていた法印が、
「外にて物音の高いのは何か?」
と尋ねた。
「夜討ちでありましょう。」
「私もそのように聞こえる。」
法印がそう言っている内に、弥二右衛門、槍を取って出ていった。
そして法印は起き上がり槍を取って、
「弥二右衛門は?」
と近習に問うと、
「すでに御出です。」
と答えた。
「要らざることをやったものだ。おそらく負傷するだろう。」
そうつぶやいている所に弥二右衛門が帰ってきた。
彼に法印が聞いた。
「変わったことは無かったか?」
「この先で夜討ちがありましたが、早くも事すみました。」
「要らぬことをしたものだ。負傷しなかったか?」
「少し手傷を負いました。」
そう答えたという。
日根野法印は度々の功多く、物事に慣れており、
自然とその言葉は戦の法則にかなっていたという。
後に法印は、この時のことを問われて、
「物音の響に、天に答えると地に答えるの差別が有る。
地に響くのは皆実事であり、天に響くのは皆虚事である。
あの夜の物音は空に響いていた。
であるので、事、必ず実では無いと考えたのだ。」
そう言ったそうだ。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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