信長の近習を斬り、出奔していた若き前田利家は、美濃攻めのころに帰参を許された。
利家、
「というわけで、妻のためにも功名を上げ、さっさと汚名を返上したい。
そのために最近手柄の多いという三左殿、あなたに付いてそのやり方を見習いたい。
よろしくお願い致す。」
森可成、
「心得た。ちょうど近く、ある砦攻めに参加する。良ければ、一緒に来なされ。」
利家、
「うむ、ありがたき申し出!」
こうして二人は、斎藤軍のこもる砦攻めに加わった。
砦は山上にあり、みな馬を下りて、競うように駆け出した。
利家も、可成の手を引いた。
「なにをしておられる! 急がねば、手柄を他の者に奪われてしまいますぞ!」
しかし可成、少しもあわてず、
「まあ、落ち着かれよ。こんな山道を走って行けば、
肝心の敵近くに迫ったころには、
疲れて手柄どころではないわ。
今は味方と争うようなマネはせず、歩いて力を貯め、
敵に全力を振るえば良い。
あせらない、あせらない。」
はたして、先に行った味方は、砦の前の部隊に足止めされている。
「それ、見たか。今が力を出し切る時ぞ!」
二人は互いに励まし合って突き進み、砦の目前までやって来た。
可成の槍が、止まった。
利家、「?」
可成、「行けよ。」
利家、「さ・・・三左殿。」
砦への一番乗りは、前田又左衛門利家となった。
可成は信長に報告する時も、その後に同輩と話した時も、
「いや又左めに、してやられたわい。ガッハッハッハッ!」
と笑うばかりだったという。
これを機に利家は汚名を返上し、のちに信長の赤母衣衆筆頭に選ばれた。
利家は大大名となってからも、
「森三左衛門ほどの巧者は、稀であった。」
と褒め称えた。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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